国産エンジン史エコカーその7・プリウスを境に変わった世界・前編

「世界初のハイブリッドカー」だけではなかったプリウスの戦略価格

前回は各種ハイブリッド方式の解説と、その中でも実用化のために選ばれた革新的な2モータースプリット式ハイブリッドシステムを採用し、1997年12月に初代トヨタ プリウスがデビューしたところまでを紹介しました。 ただでさえ革新的なハイブリッドカーだったプリウスですが、その本当の凄みは「革新的なクルマでありながら、安い」という面と、「ハイブリッドシステムだけでなく、パッケージングも革命的だった」という2点が挙げられます。 まず発売当初の価格「215万円」は「21世紀へGO!」に語呂を合わせたものと言われるほど革新的なクルマには不釣り合いで、どう考えてもこの価格で販売できるはずが無いような超特価でした。 トヨタが衝撃吸収ボディのGOAを採用した時などで時折見せる「普及のためにはまず安価で大量販売のみこめるクルマから」というスタイルもさる事ながら、明らかに赤字覚悟でハイブリッドカーという「新しい価値」を市場にいちはやく浸透させ、そこをトヨタの独壇場にしようという考え方が見られます。 その目論見は当たり、ヒット作と呼べるほどでは無かったものの、全国で普通に見かけるには十分なほどの販売台数を記録し(一般的に販売台数が3,000台を超えると街で見かけるようになると言われるところ、2万台近い年間販売台数)、見事に「ハイブリッド=エコカーのトヨタ」というイメージを構築する事に成功したのでした。 トヨタとしてはいくら赤字になっても現在までの姿を見れば先行投資に大成功というところで、プリウスには「世界初のハイブリッドカー」というだけに留まらない、トヨタの大戦略があった事がうかがえます。

燃費がいいだけでなく、先進的パッケージを持っていたプリウス

さらに、プリウスは純粋にクルマとしても十分に先進的でした。 燃費を良くするために空気抵抗を良くするためとはいえ、その後の多くのクルマが追従した、フロントからリアになだらかな一本の線で結んだようなワンモーションフォルム(その後のものよりは複雑ですが)。 そして全長が短いためやや室内スペースが不足気味ではあったものの、ルーフ高を高く取って乗降性を向上し、頭上空間を広く取る事で快適化を図ったパッケージングは、当時まだ「車高の低いハイソカー」のなごりが残っていた国産セダンの中で異彩を放っていたのです。 何しろ世界で初めてのハイブリッドカーとあってサスペンションや回生ブレーキのセッティングなどは必要最低限で、代を追って改良していく事になるものの、そうした操縦性や乗り心地の違和感があったとしても「純粋にパッケージングの優れたクルマ」としてプリウスは評価されたのです。 単なる燃費スペシャル的なクルマで済まそうとせず、実用性が無ければ普及もせず、市場も開拓できないとパッケージングに力を入れたトヨタが、ここでも勝利したと言えるでしょう。 そうして見事にハイブリッドカーを市場に浸透させて知名度も問題なく定着され、「プリウスを持っている人=環境を考えたスマートな人」というイメージすら生んだ初代プリウスは大成功し、輸出でもアメリカのカリフォルニア州で芸能人が環境対策アピールのためにこぞって買い求めるなど、「プリウス現象」とも呼べるひとつの事件となったのでした。 ちなみにこの初代プリウス初期型のカタログ燃費(当時は10.15モード)は28.0km/L。 今ならハイブリッド車以外でも達成できてしまう数値ですが、20km/Lを超える低燃費のクルマなどほとんど無かった時代だと考えれば、とても画期的だったのです。

ハイブリッド第2号、ホンダ インサイトはプリウスと対照的な燃費スペシャル

トヨタ プリウスが革命的なクルマであった事は、その後のライバル車がなかなかプリウスに相当するハイブリッド車を開発できなかった事でもわかります。 2番目のハイブリッド車として1999年11月には初代ホンダ インサイトが発売されますが、かつてのCR-Xを思わせる2シーターのスポーツハッチバック風クーペルックは何とNSXと同じ高価なオールアルミボディ、当然軽量なだけでなく、リアタイヤをフェンダーでカバーするなど空気抵抗を極限化した、見るからに「燃費スペシャル」なクルマでした。 1リッター3気筒VTECエンジンにアシストモーターを組み合わせた、ホンダが「IMA」と呼ぶパラレル式ハイブリッドはあまり先進的とは考えられず、プリウスとは異なりモーター単体でのEV走行は不可能。 コンセプトカー時代に搭載され、バッテリーに代わる大容量急速充電/放電が可能な蓄電装置として期待されたスーパーキャパシタは時期尚早で採用できず(近年になってマツダが車内電装品用にようやく採用)、インサイトはハイブリッドカーとしての先進性にはまだ欠けていたのです。 むしろエンジンの吹け上がりの良さやプリウスには無いマニュアルミッションの設定がある事から「エコカーというよりスポーツカーのようだ」という意味では好評でした。 軽量で空気抵抗の少ないボディの恩恵で10・15モード燃費こそプリウスをしのぐ35.0km/Lを記録したものの、2名乗車のコンパクトスポーツカーでは実用性の面でプリウスに全く及ばず、数ある燃費スペシャル車と同列に見られる事が多いのが初代インサイトです。

トヨタに近い2モーター式のティーノHVはクルマそのもののコンセプトで敗北した

初代ホンダ インサイトの翌年、2000年には日産からコンパクトミニバン、ティーノのハイブリッド版、ティーノ・ハイブリッドが100台限定ながら販売されます。 トヨタと同様に発電用と駆動/回生用にモーターを2つに分けたスプリット式ですが、駆動用モーターとの接続はクラッチによる断続的なもので、エンジン/モーターの動力分配機構を無段階変速機としても使うのとは異なり、普通にCVTミッションを持っていたのがプリウスとの大きな違いです。 市販ハイブリッドカーとしては世界で初めてリチウムイオンバッテリーを採用し、車重が重い割にはそれなりに実燃費は良かったと言われており、カタログ燃費も23.0km/Lとミニバンとしては優秀な数値を示した意欲作でした。 しかし、日産としては大ヒットを目指すつもりで取り入れた、当時としては革新的な前後3人掛け2列シートのショートミニバン、というティーノのコンセプトそのものが不評で販売不振(後のホンダ エディックスも同様に販売不振)だったのが最大の誤算となります。 当時の日産は経営危機からルノー傘下に入って再建途上、という余裕の無い事情もあって到底量販化に進めず、当初の100台限定販売だけで終わってしまったのです。 もしティーノそのものが大ヒットであれば次のステップもありえたかもしれない事を考えると、世界初のハイブリッドカーにある意味保守的な4ドアセダンながら、優れた使い勝手のいいパッケージングを組み合わせたトヨタとの差が際立ってしまったのでした。

以上のように、ハイブリッドカー初期の各メーカーの争いは、将来を見据えた大戦略で挑んだトヨタが先行し、慌てて参入した各社が追従できない、という結果に終わりました。 次回は、ひとり旅を続けるトヨタに、そうはさせじと食いつくホンダ、さらに「とりあえず画期的なエコカーの流れに乗ってみた」というその他メーカーの動きを「プリウスを境に変わった世界・後編」としてご紹介します。

国産エンジン史エコカーその8・プリウスを境に変わった世界・後編


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