スマホ版「マリオカート」が人気を博す一方で、現実にも“マリカー”が走っています。
主に外国人観光客から人気のマリカー。ヘルメットやシートベルトを着用せずに運転しているのを見かけます。そのため「危険」「禁止にすべき」「違法ではないのか」との声も多く上がっていますが、実際のところ、法律で罪に問われないのでしょうか?
マリカーは法律のすき間をすり抜ける
マリカーは正式には「ミニカー」に分類されます。ミニカーとは自動車やバイクのような他の車と同じように公道を走ることができる、ナンバープレートのついたカートのことです。ミニカーの車両は遊園地のゴーカートやサーキットを走るスポーツカートと同じ部類に分けられます。
ミニカーは普通免許で運転できる
ミニカーの定義は「排気量50㏄以下、出力0.6kw以下の原動機が付いた4輪車」です。車輪の数以外は原付の定義と同じなので、それくらいのパワーのエンジンが積まれているということです。
ちなみに競技用のスポーツカートには排気量250ccの車両などもありますが、公道を走るカートではそれほどの大きなエンジンは積まれません。
その他にも、「1人しか乗ることができない」「積載重量30kgまで」という規則もあります。
ここまでを見ると、自動車というよりも原付に近いような気がします。
ですが、ミニカーを運転するには普通自動車免許が必要です(AT限定も可)。原付免許や自動二輪免許ではミニカーの運転はできません。
ミニカーの何が問題なの?
では、なぜミニカーは問題視されているのでしょうか?
それは、ただただ危ないから。というのには、以下のような特徴があります。
- シートベルト、ヘルメットの着用義務がない
- 尾灯(テールランプやブレーキランプ)がない
- タイヤがむき出しの状態
- 二段階右折の義務がない
- 車高=運転手の座高のため、気づかれにくい
「生身で乗る」から危ないというのはもちろんですが、尾灯が付いていないため、後続車が前を走るミニカーの動きを予測できないという危険性があります。
普通自動車のタイヤがボディからはみ出ていると車検が通りませんよね?タイヤがむき出しというのはそれほど危ないことなのです。
また、車体が小さく、車高は運転手の座高の高さと同じになります。そのため、トラックやミニバンなどと並ぶと姿が見えなくなるという事態が起きています。急な飛び出しに不安を感じる通行人、他のドライバーも多いようです。
こんなに危険なミニカーなのに、なぜ「ヘルメットを着けずに運転する」なんてことができるのでしょうか?
ミニカーは自動車と原付の間の“あいまいな”乗り物
この疑問には「道路交通法」と「道路運送車両法」の2つの法律が答えます。
道路交通法は「正しい運転の方法」に関するものです。この道交法では、ミニカーは普通自動車であり、普通免許が必要となります。
一方の道路運送車両法は「車を正しく所有、管理、整備する」ことに関するものです。この法律では、ミニカーは原付として扱われるので、シートベルトが必要ありません。
ミニカーはこれらの法律のすき間を(本家マリオカートの如く)うまくすり抜けることで、「自動車であり原付」という乗り物となっているのです。
前述したもの以外にも、「最高時速60㎞/hまで出せる」「車検がない」という特徴があります。
マリカーの事故多発と法律改正
こうした状況下で、マリカーの事故はしばしば起きています。幸いにも死者は出ていませんが、「前の車両と接触した」「歩道に乗り上げ看板に衝突した」といった報道がされています。
事故の多発を受け、国土交通省は道路運送車両法を改正し、2020年4月からシートベルトの着用、尾灯の設置を義務化します。
また、2021年から新車に限り、以下も義務化されます。
- タイヤにフェンダーをつける
- 頭部を保護するヘッドレストを装備する
- 衝撃を吸収するハンドル構造にする
この法律改正を受けて、すでにレンタル会社はミニカーにシートベルトを設置し、顧客に着用するよう呼びかけているようです。しかし、シートベルトを着用せずに運転する例が多いのが実情です。
マリカーで事故を起こしたら?
ミニカーに乗るには自賠責保険に入る義務があります。ですので、ミニカーで事故を起こした際にも保険が適用されます。もちろん、自賠責保険でカバーできない範囲の費用は自費、または自身が加入している任意保険から払われます。
場合によっては、レンタル会社が任意保険に入っていることがあります。「対人・対物補償は無制限、人身傷害は300万円」と案内しているレンタル会社もあるようです。
ミニカーに乗るときには、利用規約や保険内容をよく読み、最悪のケースも考えるようにしましょう。
法律をすり抜けられなかったケース
ミニカーは「自動車と原付の中間の乗り物で、法律をすり抜けてきた」と言いました。ですが、“マリカー”にはすり抜けられなかったことがあります。著作権です。
2017年2月、任天堂は「不正競争行為や著作権侵害行為をしている」としてミニカーレンタル会社(株)マリカーを提訴しました。
「マリカー」という社名ではありますが、任天堂とは全くの無関係です。任天堂のゲームとそっくり(というかそのまんま)な社名、「任天堂のキャラクター(マリオ等)の衣装を顧客に着せる」「その衣装が映った画像・動画を無断でPRに使う」といった業務内容から、裁判に発展しました。
結果として、(株)マリカー側が敗訴。現在では「(株)MARIモビリティ開発」に社名を変更しました。それでも「MARI」を残す辺り、執念深さを感じずにはいられませんが…。
ミニカーへの社会的な批判も増えていることもあり、「ミニカーは健全な観光アクティビティである」「『マリオカート』とは無関係」といったことを主張するなど、各レンタル会社による自主規制の動きも見られるようになりました。
マリカーをうまく活用できないか?
危険性と権利の問題で白い目で見られてきたマリカーですが、そのアイデアは優れていると思うんです。「公道にミニカーを走らせる」という発想を実現するのは素直にすごいなと思うわけです。
どうにかしてミニカーを活用する方法はないものでしょうか?
①このままインバウンド路線で行く
ひとつは、このまま外国人からの人気を継続させるという方法。しかし、おそらく外国人にとって魅力なのは「マリオになりきってカートに乗る」ことです。ですが、そこには権利侵害が絡みます。任天堂とレンタル会社の間でキャラクターの利用に関する取り決めがなければ難しいと思います(とはいうものの、いまだにコスチュームを提供し続けているようですが)。
②新たな移動手段として活用する
そこで考えたのが「ミニカーを新たな交通手段にする」というもの。今までは「娯楽」としての意味合いが大きかったと思いますが、今後は移動のための手段にしてしまうのです。
もちろんそのためには、利用者は自動車免許が必要ですし、国はそのための法整備を、ミニカー会社は安全で高品質なミニカーを開発する必要があります。ですが速度制限などをしっかり取り決めて安全が確保されれば、ミニカーをレンタルするメリットは充分にあるのではないかと思います。
〈まとめ〉超小型モビリティ社会とマリカー
日本という小さな国において、また人口減少が叫ばれるこの国において、超小型モビリティが身近にある社会が望ましいと考えています。国や各自動車メーカーは超小型モビリティ社会の実現に向けて動いてはいますが、まだまだというのが実情です。
そのような中、「誰もが乗れる」「人を呼ぶことができる」マリカーは、否定されるだけのものではないはずです。単に私たちが「クルマ」と聞いて思い浮かべる姿とちょっと違うだけなのだと思います。これからのスタンダードは1人乗りの手軽なクルマになっていくはずです。
マリカーは外国人に人気です。「日本の法律を知らない人が運転なんて怖い」という意見も多くあります。その通りだと思います。
一方で、外国人を呼ぶというのが今の日本の目標でもあります。そうすれば彼らが運転することが当たり前になります。「怖い」なんて言っていられないかもしれません。
ちょっとだけ視点を変えて、マリカーのこと、マリカーに乗る人のことを見てみても良いのではないでしょうか?