国産エンジンの歴史軽自動車編その7は、ダイハツ・スバル・ホンダのエンジンを紹介します。
優れた基本設計で長寿命を誇ったダイハツ EFエンジン
前回、ダイハツについては4気筒のJB型エンジンについて触れましたが、ターボ版のJB-JL及びNA版のJB-ELはいずれも高回転高出力のスポーツモデル、あるいは静粛性は防振性に優れた高級モデル向けであり、軽自動車用エンジンの主力は550cc時代後期から引き続き3気筒エンジンのEF型が担いました。
1985年に登場したEB型エンジンをベースに、シリンダー内径を62mmから68mmへとボアアップしたEF型エンジンは原型から数えて日本の軽自動車用としては2012年5月に軽SUVのテリオスキッド生産終了まで、輸出も含む自動車用としては2014年9月にプロドゥア ビバ(L250型ダイハツ ミラのマレーシア版)が生産終了するまで、実に30年近いロングライフを誇った傑作エンジンです。
それだけでなくダイハツというと「軽自動車メーカー」の印象がありますが、そもそもは生粋のエンジン屋(ダイハツ工業の前身は発動機製造という会社)であり、その産業用エンジンとしては未だにEF型が生産されています。
非常に多彩なダイハツEFは、SOHC主体ながらよく回った
原型となるEB型エンジンの時点で基本メカニズムは旧態なSOHC2バルブオンリーながら、インタークーラーターボに電子制御マルチポイントインジェクションといった追加装備だけでスズキや三菱のDOHC4バルブ/5バルブターボエンジンに対抗していただけあり、基本設計は非常に優れていました。
その「優れていながら枯れた基本技術」をそのまま継承したEF型エンジンにはDOHC4バルブヘッドも載せた高性能バージョンのEF-RL(ターボ)、EF-ZL(NA)もあったものの、その真骨頂はやはりSOHCエンジンで、他社のSOHCエンジンが振動や騒音が激しい「安かろう悪かろう」の傾向があったのに対し、EBに引き続きSOHCエンジンのままで十分な性能を発揮したのです。
中でも面白かったのがSOHC4バルブながらキャブレターのままだったEF-HLで、8000回転以上まで小気味良く軽々と吹け上がり、L200型ミラの平凡な廉価版に搭載されながら、まるでスポーツエンジンのように痛快な走りができたものでした。
SOHC4バルブEFIターボのEF-JLもまたよく回るトルクフルなエンジンで、それを搭載したスポーツモデル、L200Sミラ アヴァンツァーアトRやL210SミラX4Rはラリー競技でDOHCターボを搭載したアルトワークスに競り勝つなど、高価で重いDOHCエンジンの必要性を疑わせるほどの活躍を見せています。
「カタログで売りにするような凝ったメカニズムが無いのに高性能」なのがエンジン屋たるダイハツの真骨頂でしたが、それゆえに「乗らないとわからない通好み」となってしまい、長らくスズキに続く軽自動車界No.2に甘んじたのはちょっと残念でした。
ただ真面目に性能のいいエンジンを作っていれば良いわけでは無い、というのが当時のダイハツを見ているとよくわかります。
コンパクトでロングストロークが特徴のスバル4気筒、EN07
550cc時代末期にようやくスバル360以来の2気筒EK型エンジンから4気筒EN型エンジンに移行したスバルですが、小さな事業規模の中で最低限の投資で軽自動車生産を続けるために他メーカー軽自動車より設計の制約が大きく、エンジンも独特になっています。
まず基本的なレイアウトが変更できないため限られたエンジンスペースで4気筒エンジンを載せるため2気筒のEK型エンジンとほぼ同じサイズで4気筒化、排気量はストロークで稼いだために660cc化の際もストロークアップで対処ました。
これにより、結果的には他社製軽自動車用4気筒エンジンに比べてロングストロークでトルクフル、低回転から粘るので燃費も良くなるという結果オーライに繋がり、過給器も他社のターボチャージャーに対して、高回転での突き抜けるようなブースト感は無いものの、低回転から粘る過給を行うスーパーチャージャーを採用した事から、スバルの軽自動車用エンジンは他社と全く異なるフィーリングを実現しています。
これにより多くのファンを獲得しただけでなく耐久性に優れた走りでもアピールし、1990年代中期のスバル軽自動車を支えた名車ヴィヴィオは全日本ラリーでも活躍したほか国際ラリーにも参戦。
1992年にサファリラリーに参戦した際には、後の名ドライバー、故 コリン・マクレーに「壊れてもいいからとにかく前を走れ」とオーダーを出したところ、本当に壊れてリタイアするまでにトヨタワークスのセリカGT-FOURすら上回る総合4位で走るなど、世界を驚かせたのでありました。
3連スロットルMTRECで、ひとりNAスポーツ路線を歩んだホンダE07A
550cc時代の1985年に初代トゥデイで軽乗用車市場に復帰したホンダですが、かつてN360で第1次軽自動車パワーウォーズを巻き起こしていた事もあって他社のようなターボやDOHCを使った高性能エンジンを作る事には風当たりが強く、結局660cc旧規格車時代から新規格初期の90年代を通じ、ターボもDOHCも無いままエンジン自体には地味な印象が残ります。
しかし、その時代の660cc3気筒E07AエンジンがまたホンダらしいNAスポーツエンジンでした。
550cc時代のE05AからSOHCながら4バルブ化やPGM-FI化(電子制御インジェクション)を進めると、660cc時代の2代目トゥデイと2シーターミッドシップスポーツのビートには何と電子制御3連スロットル「MTREC」を搭載し、ビートでは軽自動車用エンジンとしては今に至るまで唯一、自主規制値の64馬力を発揮したのです。
華があったのはもちろんビートでしたが、パワーがあるとはいえ車重が重かったビートより、実用域を重視して58馬力に抑えつつ軽量だったトゥデイこそがMTREC仕様E07Aの真骨頂というべきで、全世代を通じたNAの軽自動車では、このMTREC搭載2代目トゥデイこそが最強と言われています。
MTREC仕様E07Aは他にもさらに軽量な初代トゥデイやFRのアクティトラックに搭載されるなど現在でも活躍しており、1.3リッターコンパクトスポーツハッチバックのホンダ GA2シティと並び、「これが出ると他のクルマでは勝負にならない」と、競技やレースに参加できるクルマの登録年度を制約するなど、出場できないような規則が作られるほどの特別なクルマになったのでした。
逆風の中でこそ舞い上がるような、まさにホンダらしいエンジンがMTREC仕様E07Aだったといえます。
2回にわたり紹介した90年代の軽自動車用エンジン、どうでしたか?
現在の軽自動車もブームに乗って個性的なモデルが数多くありますが、90年代は逆に地味なラインナップの中で多彩なエンジンがあった事により、「形は同じだけど中身が全然違う!」という軽自動車がたくさんある、面白い時代でした。
それだけにこの時代の軽自動車の中古車選びはグレードまで詳しくないとかなり難しく、さらにエンジンスワップされたものも多いので実際にエンジンの写真まで見ないと本当はどういうクルマかわからない、とさらに面白い事になっています。
次回は1998年10月からの新規格軽自動車初期から2000年代前半にかけ、コストダウンの中で変革を迫られた軽自動車用エンジンを紹介します。