国産エンジン史高級車その6・国産乗用車用V8エンジン今昔2000年代以降

国産車唯一のFF乗用車用V8エンジン、三菱8A80

前回は90年代に花開いたトヨタ(レクサス)と日産のV8エンジン、それに幻に終わったマツダ(アマティ)のW12エンジンを紹介しました。

それでは他のメーカーは結局V8エンジン、あるいはそれ以上を作らなかったのかと言うと、F1用にV12エンジンを作ったいすゞやヤマハ、現在の2代目NSXとは別に、2008年の世界恐慌で市販化を断念し、レーシングカーHSV-010となった、当時のNSX後継車用にホンダが開発していたV8やV10といった例はあります。

しかし、トヨタと日産以外で市販乗用車用V8エンジンを世に出したのは唯一、三菱自動車だけだったのです。

日産の「シーマ現象」に続いて、1990年デビューのディアマンテでFF大型サルーンというジャンルを開拓した三菱は当時まだ大型車から軽自動車まで作るフルラインアップメーカーであり、最上級サルーンとしてデボネアが存在しました。

その後継車として2000年からデビューしたプラウディアと、その車体を延長したロングストレッチリムジン版のディグニティに採用されたのがGDI直噴V8エンジンの8A80型です。

V型8気筒DOHC32バルブ、4.5リッターの排気量から280馬力/5,000回転、42kgf・m/4,000回転と同じ排気量の日産VH45DEを上回るスペックを持っていた三菱8A80ですが、三菱唯一の量産乗用車用V8エンジンであると同時に、国産車唯一のFF用V8エンジンでもあります。

フロントに横置きで搭載された8A80エンジンにより、メカニカルスペースが最小限に抑えられたプラウディア/ディグニティはFF車の常として「FR車よりも広い車内空間」をアピールし、宮内庁にも納入されて秋篠宮家の公用車としても使われました。

しかし、デボネア以来の三菱車の常として、三菱グループ以外では公用車、社用車としての需要がほとんど無かった事や、デビュー直後に発覚した三菱自動車自体の不祥事による販売の低迷の影響もあって、プラウディア/ディグニティも販売台数が低迷したままわずか2年あまりで生産を終了し、三菱自動車の高級車の歴史も、そして三菱唯一の量産乗用車用V8エンジンの歴史もここで終了してしまいます。

ただし、8A80エンジン自体には特に問題が無かった事から、韓国ヒュンダイで生産されていた兄弟車、エクウス用として2008年まで使われました。

日本での「レクサス」ブランドの要となるトヨタUR系エンジン

一方、トヨタでは「レクサス」ブランドの展開前は初代セルシオ以来の1UZ-FEをバージョンアップして排気量を4.3リッターとした3UZ-FEを高級車用主力V8エンジンとして使い続けます。

日本で「レクサス」ブランドが始まった後もスポーツセダンのGS(旧トヨタ アリスト)やスポーツコンバーチブルのSC(旧トヨタ ソアラ)用としてUZ系エンジンを使い続けましたが、2006年にいよいよ本命のトヨタ セルシオ後継車、レクサス LSが登場すると、新型の直噴V8エンジン、1UR-FSE型をそこに採用しました。

トヨタの直噴エンジン技術「D-4S」を採用した1UR-FSEはそれまでの業界自主規制でトヨタ時代は280馬力に抑えていた最高出力を一気に385馬力/6,400回転・51.0kgf・m/4,100回転(後に392馬力/6,400回転・51.0kgf・m/4,100回転)まで引き上げ、高級車ブランド「レクサス」を日本で本格的に展開する礎となります。

既に他メーカーでは280馬力規制を突破する例があったので業界自主規制も無効化されてはいましたが、トヨタ時代との違いを明確化した役割があったと言えるでしょう。

このUR系エンジンは1UZ-FEがLS460に搭載された他、セルシオ無き後のトヨタのフラッグシップ、クラウンマジェスタにも搭載され、センチュリー用のV12エンジンを除けば一般ユース用の最強エンジンとなりました。

さらにハイブリッド車のレクサス LS600に搭載された排気量5リッター版の2UZ-FSE、さらにそれをヤマハがチューンしたスポーツエンジン2UZ-GSEもあり、2UZ-GSEは現在では477馬力/7,100回転・54.0kgf・m/4,800-5,600回転を発揮するまでに至り、レクサス GS FやRC Fに搭載されている他、新型高級スポーツクーペのLC500にも搭載される予定です。

新型のVK系V8エンジンを開発したものの、ダウンサイジングに進む日産

セルシオ/レクサスLSに同じくして高級車ブランド「インフィニティ」を北米で立ち上げていた日産ですが、ブランディングでレクサスに遅れを取った事や、2008年の世界不況の影響もあって日本での「インフィニティ」ブランド立ち上げを断念した事もあって、トヨタとは少し違う道を歩み始めます。

2001年にはそれまでのVH系V8エンジンに早々に見切りをつけ、後継で三菱8A80エンジンに続き2番目の直噴V8エンジン、4.5リッターの新型VK45DDをシーマに投入しました。

その発展型VK45DEはプレジデントやフーガにも搭載され、フーガ用としては333馬力を発揮してレクサス各車に対抗しています。

しかし、その頃に最高級車プレジデントとシーマの廃止、フーガを最高級車として展開しようとするも、販売サイドからの要望でシーマ復活、など日産の高級車戦略が一時的に混乱し、それが落ち着くとシーマとフーガの国内モデルにはV8エンジンが無くなっていました。

フーガの北米版であるインフィニティM45や、その後継で5.6リッターのVK56VDを搭載するインフィニティM56ではV8エンジンが残ったものの、日本ではフーガもシーマも3.5リッターエンジン+モーターという小排気量+ハイブリッド化された高級車となったのです。

メルセデス・ベンツとの提携でインフィニティQ50/Q60(日本名スカイラインセダン/クーペ)にメルセデス・ベンツ製の2リッター4気筒ターボエンジンを搭載したり、新型のVR30型3リッターV6ターボエンジンを搭載するようになっている日産では、どちらかといえば「ダウンサイジングターボ」の波に乗っており、今後の日産V8エンジンは北米用のピックアップトラック用などに残るのみではないかと予想され、高級車用としては残らないのでは無いかと思われます。


以上、2000年代から現在までのV8エンジンを中心にした、国産高級車用エンジンの歴史をご紹介しました。

世界的にあらゆる種類の乗用車で「大排気量多気筒エンジン」を選ぶか、ダウンサイジング化された「小排気量少気筒ターボエンジン」に進むかで、2010年代に入ってから高級車用エンジンとしてもダウンサイジングターボの採用が増えてきているのです。

その流れの中であまりダウンサイジングターボに積極的ではないトヨタのような例もありますが、次回はこのシリーズ最終回として、ガソリンエンジンだけにとどまらない、「これからの国産高級車用エンジン」をご紹介します。

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