現在でもBMWのエンジンは直6が中心
自動車用エンジンにはさまざまな形式がありますが、ドイツの高級車メーカーBMWがその基本としているのが直列6気筒(直6)エンジンです。
排気量を下げてターボ過給を行うことで、低燃費・低排出ガス・パワーを高いレベルで成立させるダウンサイジングターボ化の波もあって、最近では直列4気筒エンジンや、低排気量エンジンでは直列3気筒エンジンの採用が増えています。
大排気量エンジンでは直列4気筒、同6気筒エンジンを2列並べたV型8気筒、12気筒エンジンもありますが、中核を成す3リッタークラスでは依然として直6エンジンを採用しており、これをエンジンルーム内に縦置きして後輪駆動、あるいはそれをベースに4輪駆動を行うメーカーは数が少なくなりました。
メルセデス・ベンツがこれから直6エンジンを復活させるとはいえ、2017年3月現在はまだFR車(フロントエンジン・後輪駆動車)の乗用車で直6なのはBMWくらい、しかも一度もV6エンジンを使っていません。
「シルキーシックス」と呼ばれるBMWの直6エンジンはスバルやポルシェの水平対向エンジン、マツダのロータリーエンジンのようにBMWのアイデンティティとなっていますが、なぜBMWだけがそれを続けたのでしょうか?
その特性から、かつては多くのメーカーが採用した直6
現在ではほとんど無い乗用車用直6エンジンですが、かつては世界中で多用されており、日本車もその例外ではありませんでした。
トヨタや日産では高級車やスポーツカーに直6エンジンが使われていましたし、三菱ですら初期の高級車、初代デボネアに一時期2リッター直6エンジンを採用しています。
国産車メーカーが参考にした外国製エンジンでも当然直6エンジンは多く、大排気量ならV8やV12、小排気量なら直4や直6エンジンが主流だったのです。
中でも直6エンジンが好まれたのは、カウンターウェイトやバランスシャフトを使わずともエンジンの振動は最小限であり、パワーを上げても静粛性が高く低振動な特性から、軽量ハイパワーエンジンの代表格として、多くの車に使われました。
また、シリンダー(エンジン内部でピストンが上下する筒状の部分)が一列に配されていることで、吸気・排気の配管や、ターボチャージャーなどを装着した時のレイアウトが楽で、エンジンルームにコンパクトに収まるというメリットもあります。
衝突安全性の観点から、一時期絶滅状態へ
しかし、6つのシリンダーを一列に配置する以上はエンジンの全長がどうしても長くなるため、衝突安全性の基準が厳しくなると、直6エンジンでそれに対応するのが難しくなります。
特に縦置きエンジンの場合、衝突してもキャビンにエンジンが食い込まないように、あるいは衝突した相手の車などにエンジンが刺さらないように備えるクラッシャブル・ゾーンを作ることが難しかったのです。
そのため、従来からコンパクトなエンジンルームに収めてキャビンを最大限に取る手法、あるいはFF車用として採用されていたV6エンジンに脚光が当たります。
直3エンジンを2列にしたV6なら全長が短く縦置きでもクラッシャブルゾーンを広く取れますし、横置きのFF車用エンジンとしても使えました。
そのため性能以上に安全性を重視するメルセデス・ベンツは直6を廃止して一斉にV6または直4+過給機エンジンに変更、日本でもトヨタや日産が同じく直6を廃止しています。
一時期、直6エンジンを乗用車用にも使っていたのはBMWや、前述のレイアウト単純化にメリットを見出し横置き直6を使ったボルボくらいだったのです。
なぜBMWは直6を続けたのか?
この状況で、エンジンルームの長さを他社より長く取ってまで直6エンジンを続けたBMW。
それはなぜでしょうか?
もともと、エンジンよりシャシーが勝り、安全性や耐久性を重視したメルセデス・ベンツに対し、BMWは性能をより重視する方向にあり、アピールするポイントが全く異なったというのがその理由でしょう。
静粛性が高く軽くてパワフル、その滑らかなフィーリングから「シルキーシックス」と言われたBMWの直6エンジンですが、V6エンジンでもそのフィーリングの良さが評判のエンジンはあります。
(シルキーシックスについての記事はこちら)
しかし、ここまで解説したような直6のメリットを最大限に活かすとともに、ライバルに対する格好の差別点として、それをフルに活かしたと言えるでしょう。
実際、メルセデス・ベンツも2016年になって方針を転換し、新型の3リッター直6エンジンM256を2017年デビューの新型Sクラスに搭載するとされています。
その理由として、4リッタークラスのエンジンを置き換える3リッタークラスのダウンサイジングターボでは、配管や補機類のレイアントが簡単で済む直6の方が有利と説明されており、これまでのBMWの正しさを証明した形になりました。
新しもの好きで若々しくスポーティなイメージを持つBMWですが、その「伝統だけが理由では無い軸のブレなさ」は、今こそ評価されるべきかもしれません。