代官山 蔦屋書店では毎月第2日曜日に車オフ会「モーニングクルーズ」を開催している。月に一度、本屋の駐車場に名だたる車たちが集結するという、なんとも刺激的なイベントだ。[代官山蔦屋書店 クルマ・バイクコーナー]
11月10日(日)のテーマは「1979年までのアバルト」。かなり限定的、挑戦的なテーマにも思えるが、早朝にもかかわらず多くのアバルトファンが集まった。オーナーの皆さんから自慢のアバルト車への出会いや想いを伺った。
アバルト創立70周年を記念して
前日11月9日(土)には「ABARTH DAYS 2019」が富士スピードウェイにて開催されたばかりだが、今年はアバルトが創立されてから70周年。今回のモーニングクルーズでは創設者カルロ・アバルト氏が亡くなった1979年までのアバルトでテーマを設定した。
モーニングクルーズはその名の通り午前7時から9時。午前6時半頃から続々と車が集まって来たが、それはテーマ車に限らない。1980年以降のアバルトはもちろん、フィアット、フェラーリ、アルファロメオといった同じイタリア車から日本車まで様々であった。
オーナーの皆さんが語るアバルトの魅力は?
当日集まった1979年までのアバルト車は9台。その中から4名のオーナーの方に自身の愛車についてお話を伺うことができた。
フィアット・アバルト 750 ザガート
最初にご紹介するのはフィアット・アバルト 750 ザガート。1956年からアバルトはフィアットをベースにレース車を作り始める。59年までザガートでボディを手掛けたが、このクーペがまさに59年式のザガート車である。
オーナーの高瀨さんはその魅力を「色々なことが一つに詰まっているところ」だという。アバルト、ザガート、サイズ感と「ダブルバブル」と称される特徴的なデザイン…レースで勝ち続けたアバルトが一躍有名になった時代を象徴する車だといえる。
こだわりはハンドルで、購入後ウッドステアリングに変えた。これにより長時間の運転をしているとしっくりくるのだとか。ちなみに「車オフ会は初めてですが、他のオーナーのメンテナンスを見られるのが良いですね」と話してくれた。
そのとなりには白の750ザガートが並んでいたが、驚くことがあった。なんとそのオーナーの後藤さんは今回のテーマ「1979年までのアバルト」を決めた張本人の一人だったのだ。
今年2019年はアバルト創業70周年でもあるが、ザガート創業100周年でもある。後藤さんはそれを記念したイタリア・ミラノで行われたオーナーズクラブのミーティングにアジアから唯一参加したそうだ。筋金入りのアバルト、ザガート好きだとわかるが、その出会いを伺った。
「購入したのは今から10年ほど前ですが、アバルトとザガートの組み合わせは大学生の頃からの憧れだったんです。ミッレミリアの写真集や復刻版ビデオを見る中で段々と好きになりました」
好きなところは高瀨さんと同じくそのデザイン。他にもダブルバブルの車はあるが750ザガートが一番似合うという。そのままが好きなため交換はしていない。オリジナルのホイールも気に入っているそうだ。
高瀨さんと後藤さんは両者とも750ザガートを「CORGY’S」(東京・練馬)にて購入し、メンテナンスを行っている。そのためお互いに以前から顔見知りの仲だった。車オフ会はそうした仲間たちが一堂に会するイベントでもあるようだ。
フィアット・アバルト 1000 ビアルベーロ
次にご紹介するのはフィアット・アバルト 1000 ビアルベーロ。1961年、ザガートに変わりベッカリスという小さなカロッツェリアが製造を担当した。
なんとこちらのフィアット・アバルト1000だが、この日に納車されたばかり。だが実はオーナーの多田さんはこれが3台目のアバルトで、かなりのアバルト通。そんな多田さんにアバルトについての魅力を聞いた。
「テーマは”創業から1979年まで”ですけど、実際に今日集まったのは1959年から64年のわずか5年の間につくられた車しかないんです。5年の間にこれだけのバリエーションをつくったというのがアバルトなんです。まるで20~30年の歴史があるくらい幅広いですよね」
いつもは車雑誌の編集者であり、古いものから最新のものまで多くの車に乗ってきたという多田さん。アバルトに乗り続ける理由は何なのだろうか。
「“軽くて、速くて、カッコイイ”という男の子が憧れる3要素が全部入っている。これしかないですね。昔の車はそんなに速くないし簡単じゃない。乗って楽しいかというと、今のスポーツカーのほうが良くできていて楽しい。ですが、この時代のアバルトは本当に速くて面白い。もちろん絶対的なタイムは出ないですが、軽くて面白い。そしてやっぱりイタリア車のデザインが好きですね」
ちなみに多田さんが最初に購入したアバルト車は「セストリエーレ」、2台目が「レコード・モンツァ」。
アバルト シムカ 2000
最後にご紹介するのがアバルト シムカ 2000。オーナーの神谷さんは7年前のモーニングクルーズ初開催の頃からずっと参加しているそう。まずはこの車との出会いについて伺った。
「24年前の1996年、スイスで購入しました。ずっとアバルト シムカ2000に絞って探していました。そんなに売り場に出回るものではないですからね。ドイツでレストアされ、すでに仕上がったものだったので今まで手はかからなかったですね。購入以来ほとんど手を加えたことはないですが、ずっと調子良いですね」
購入直後は一年中多くのイベントに出て、サーキットも走ってきたという神谷さんにとって、アバルトの魅力は何だろうか。
「アバルト自体好きですが、ライトウェイトの小さいボディに2,000ccというすごいエンジンを載せるという過激さが好きなんです。こんな小さい車に58φなんていうバカでかいキャブレターを載せてしまうカルロ・アバルトの過激な発想は突き抜けていますよね。日本に来たときは直管のマフラー、6速ドグミッションと完全にサーキットを走る仕様でした。富士スピードウェイで走ったときは素晴らしかったです。今では公道で走るためにキャブレターを45φにして、マフラーもつくって、ミッションも4速にしましたけどね」
最後に欲しい車を聞くと、「チシタリア、オスカ、戦前のブガッティ…欲しい車はだいたい手に入れたね。クラシックカーの値段は高くなっちゃったけど、私は20年くらい前に買えたから良かった。今じゃ買えないね」と笑っていたのが印象的だった。
最後に
最後になるが、その車を所有することに大層な理由などいらないと感じた。大きな車が好きな人、大排気量が好きな人もいる。その中で、軽くて・速い、そしてコンパクトでダイレクトな操作感を味わえるアバルトのような車が好きな人も当然いる。ただ、アバルトオーナーは本当に車が好きなのだと取材をしてわかった。アバルトオーナーも現代のスポーツカーの方が速くて便利だと認めている。それを認めているからこそ、それでもクラシカルなスポーツカーに乗る理由がそこにはあるとはっきりわかる。車はアートだ。本当に価値のあるアートは時代が過ぎても廃れない。ゴッホやピカソが描く絵が今でも愛されるように、アバルトは愛されていた。アバルトやイタリア車以外の車に乗った見学者が多かったことも、それがアートであることを証明していた。博物館や美術館を楽しむように、このようなクラシカルな車のオフ会に訪れるのもいいかもしれない。
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