皆さんは、現在世の中で流通している電気自動車(以下EV)といえば何を思い浮かべるでしょうか。国産なら日産LEAF、三菱のi-MiEV、BMWi3、VWe-Golf、そしてテスラ。まだまだ数は少ないので知らない方もいらっしゃるかも知れませんが、EV業界は今後どんどん普及してくる業界のうちの1つとして、各自動車メーカーが力を入れています。
その中でも特に異彩を放っているのが、何と言ってもテスラ(Tesla Motors)ですよね。テスラは、アメリカのシリコンバレーを本拠地とする新興EVメーカーです。 日本では今まで、あまり知名度が高いとはいえなかったものの、最新型のモデル3の登場や先日のモデルYの登場などによって徐々に知名度を上げています。 しかし今勢いに乗っているそのテスラに、待ったをかけようとしているのが、VWグループです。今回は今後のEV業界の動向を、VWグループのEV侵略作戦を紐解きながら考えていきたいと思います。
現在の電気自動車情勢
では、まず現在のテスラの実績をEVの2018年モデル別販売台数から見ていきましょう。
こちらは三菱自動車がHPで公開しているもので、EVだけでなくPHV(電気モーターのアシストで走るガソリン車、充電なし)とPHEV(電気モーターのアシストで走るガソリン車、充電あり)なども含まれているものなのですが、なんとテスラのEVはハイブリット車なども差し置いて2018中ラインナップの全てがランキング5位に入っていますね。日産LEAFもなかなか世界を相手に奮闘していますね。
しかしとにかくこのグラフで、EVに限らず電気モーター搭載自動車の中でもテスラがかなりのシェアを占めていることがわかります。
テスラモーターズのビジョン
現在のラインナップ
そんなテスラですが、今後はどのような作戦なのでしょうか。まずは現在のラインナップを見てみましょう。
上で紹介したランキングでもご紹介しましたが、2019年3月22日現在テスラが全世界で販売しているのはコンパクトセダンのモデル3(日本納車は2019年後半)、大型SUVのモデルX、そしてフラッグシップセダンのモデルSです。加えて現在はつい先週予約が開始し、2020年からの納車となる予定のコンパクトSUVのモデルYと2台目となるオープンスポーツカーのテスラロードスターがあります。以下に自動車の主要ボディタイプ表を用いてまとめてみます。
こうしてまとめてみると未だに主要ボディタイプの全てを抑えられているわけではないということがわかります。特に日本をはじめとするテスラのターゲット市場では、コンパクトハッチやミニバンの需要は大きくなるのではないでしょうか。
今後のビジョン テスラはエネルギー会社に?
しかしもちろん、テスラも今の現状で満足している訳ではなく、2019年中にはEVセミトラック、2019年末をめどにEVピックアップトラックを発表する予定で、輸送・流通の業界に本格的に参入していく様子です。
しかしテスラの一番大きなビジョンは、ボディタイプの投下も重要ですがそれよりも、バッテリーやエネルギーの問題を大きく改善していきたい意向だと言います。テスラの公式FacebookにてテスラCEOのイーロン・マスク氏は、2020年までにテスラ車の1回の充電での最大航続距離を745マイル(約1,200km)まで伸ばすことが可能になると発言しています。更にマスク氏は、自身のいとこにあたるリンドン・ライブ(Lyndon Rive)氏が設立した太陽光発電会社も買収していて、将来的には『持続可能エネルギー会社』になるという発言もしています。
下の写真はそのビジョンのうちの1つでもある、テスラによる世界最大の燃料電池生産工場、テスラ ギガファクトリーです。このように、これからマスク氏が実際にどのようにしてテスラを発展させていくかは正直誰にも正確なことはわかりませんが、とにかくEVのラインナップ充実だけでなく、その先も見ていることが伺えますね。
VWグループのビジョン
VWグループとは
VWグループとは、フォルクスワーゲンが中心となっているグループ会社です。その傘下にはあのアウディ、ポルシェ、ランボルギーニ、ベントレー、ブガッティをはじめ、セアト、シュコダ、ドゥカティ、スカニア、MANがいます。
こうしてみると、『このブランドもVWの参加だったの!?』とびっくりするほど豊富なラインナップですよね。市民的なブランド(VW、セアト、シュコダ)からハイパーカーブランド(ベントレー、ブガッティ、ランボルギーニ、モデルによりポルシェ)、その2つの間を埋めるプレミアムブランド(アウディ、モデルによりポルシェ)そしてトラック(スカニア、MAN)やバイク(ドゥカティ)まで、非常に幅広くそして満遍なくラインナップされていることがわかりますね。
今後10年で70車種、全世界での販売台数目標2,200万台!
しかしVWグループの現在は未だEVのラインナップは少なく、e-Golfやe-up!などしか代表的なモデルがありませんし、上にご紹介したランキングでもお分かりのように、世界的な販売台数も少なめです。
しかしこの2019年、1月末には『VWグループコンポーネンツ』という新ブランドを立ち上げ、今後のEVや自動運転開発費に440億ユーロ(約5兆6700億円)という多額な費用を投資する予定だということも発表していて、EVの開発はかなり進むと思われます。
その目標としては、今後10年でなんと70車種、全世界での総販売台数は2,200万台を目標にしています。とんでもない数ですよね。
カギはプラットフォームの共有
しかしなぜそんなことが可能なのでしょうか。それはまさに、先ほど紹介したVWグループの層の厚さと、その厚い層の中でのプラットフォームの共有にあります。
自動車において、新たなモデルを生み出す製造工程で最も大事で最もコストがかかると言われている工程のうちの1つに、プラットフォーム開発があります。その車の骨格の元となる部分です。もちろんそのプラットフォームはそれぞれの自動車企業が各々に開発を進めるのですが、いくつかの車は今までにも企業同士で共有されたプラットフォームが利用されてくることはありました。しかしこのVWグループでは、その共有の幅が非常に広いのです。今後のVWグループでは、小型車のための『MEB』プラットフォーム(以下の写真)と大型車のための『PPE』プラットフォームをすべてのブランドで多用し、ラインナップを広げていく予定です。
こういったプラットフォームの共有によるVWグループのEV侵略作戦ですが、その先陣を切るのがアウディのe-tronです。さらにVWグループは『I.D』という新ブランドも立ち上げ、SUVも開発中、その後にはポルシェのTaycanやCross Tourismoなども続き、シュコダからもEVが発売される予定です。
ちなみに気になるランボルギーニですが、ランボルギーニは今後もブランドコンセプトを守り続けながら『完全な』EVは作らず、ランボルギーニらしさも残しながら開発を進めていくそうです。
このようにVWグループでは今後も、『それぞれのブランドコンセプトを守りつつ、共有できるところは共有する』スタイルでEV業界侵略作戦を進めていくようですね。
今後の展望
いかがでしたでしょうか。日本では2030年の自動車新車販売台数におけるEVの割合は24%、2040年には54%になるとみられています。(経済産業省より:自動車新時代戦略会議(第1回)資料 – 経済産業省https://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/seizou/jidousha…/pdf/001_01_00.pdf)この動きの中でテスラ、VWグループは実際にはどのようにEV業界を動かしていくのでしょうか。そして、このようにEVの需要と普及率が高まっていく中で日産LEAFに代表される国産EV達の作戦も気になるところです。
これからのEV業界では自動運転技術やネットワークを介したコネクテッドシステムなども必須になってきますが、各メーカーはどのようにこれからの未来の『移動』を作っていくのでしょうか。楽しみにしていきたいと思います。