クルマのサスペンション(ショックアブソーバーやバネ)を指して「グニャグニャの足回り」や「硬い足回り」などという表現をよく目にします。サスペンション交換など本当の意義が浸透しない日本のクルマ文化の問題とは?
足回りの硬い、柔らかいはどういう意味?
あなたがクルマを運転している、あるいは乗っているとします。
クルマというものはタイヤが4つあって同じような形をしていてもいろいろな個性があるもので、ちょっと走るだけでもその個性を感じる事は簡単です。
道路のちょっとした継ぎ目でも拾って、車体に振動が伝わるクルマ。
それだけではなく、ミシミシ言い出すクルマ。
その振動による揺れがなかなか止まらないクルマ。
凪いだ水面の上を滑るがごとく、揺れも何も感じないクルマ。
また、ハンドルを切ってカーブを曲がれば、また違う個性も見えてきます。
ゆっくりとロール(傾いて)していくクルマ。
ハンドルを切った瞬間、敏感に反応して向きを変えようとするクルマ。
加速や減速に関わる個性は、エンジンやタイヤ、ブレーキなどが生み出しますが、それ以外の個性を生み出すとすれば足回りのサスペンション、それにボディ剛性でしょう。
その個性こそが、足回りにとっては「硬い」や「柔らかい」と表現されるものです。
「柔らかい足回り」はどんなもの?
悪く言えば「グニャグニャな足回り」、良い意味では「しなやかな足回り」などと表現されますが、多くの場合は「乗り心地の柔らかさを重視した足回り」だと思って間違いありません。
ここで「乗り心地の良さ」では無いのがひとつのポイントで、乗り心地が柔らかいからといって、必ずしも乗り心地が良いとは限らないのです。
乗っていて常にフワフワするような感覚も「柔らかい足回り」に含まれるので、場合によってはそれが「落ち着かない乗り心地」に結びつく事もありますし、逆にそのクルマに最適化された絶妙なセッティングがなされていれば、「上質な乗り心地」と評される事もあります。
よほどまっ平らな路面でも走らない限り、クルマというのは絶えず大小の路面の凸凹を乗り越えて走っているわけですが、そのショックをなるべく伝えないよう、足回りのショックアブソーバーとバネでいなしているのが柔らかい足回りです。
言わば絶えず路面からの入力に対して動き続け、ボディは常にフラットで動かないようにしているわけですが、時には衝撃を吸収しきれず、ボディを突き上げる事もあります。
その時に柔らかい足回りを挟んでいる分、尖ったような衝撃ではなく、フワフワした動きとして伝わるだけです。
足回りが動く事を前提にしているので、カーブでハンドルを切ると、切って横Gが生じた分だけ車体がロール(傾き)します。
ただ柔らかいだけの足回りだと腰が砕けたようにガクン!と傾きますし、電子制御式のサスペンションではそれすらもいなそうと、緩やかにロールしますが、それもまた個性です。
しかし、あまりロールするとそれだけ車体の重量も偏りますからタイヤの負担になりますし、足回りのストローク(伸び縮みできる範囲)の限界を超えるとタイヤが浮き、最悪は横転してしまいます。
「硬い足回り」はどんなもの?
一方、硬い足回りは「ゴツゴツとした突き上げ感」を伴いますが、適度な硬さを感じる限りは、路面状況をドライバーによく伝えるので、スポーツ走行に適した足回りと言えます。
ただし、そのためにはボディ剛性が高く無いと足回りからの入力が結局はボディの歪みに吸収されてうまく伝わりませんし、それが続くとボディが歪んだままになる事もあります。
また、硬い足回りに路面からの強い入力が続くと、足回りのショックアブソーバー内部に充填されたガスやオイル、エアーなどの温度が摩擦熱で上がり、圧力を高めて破損に繋がるのです。
そのため、まだ道路状況が良くなくて、ボディ剛性も低かった時代の日本では「硬い足回り」を純正装備するのは難しく、海外製の高性能ショックアブソーバーなども日本では破損に悩まされるものが少なくありませんでした。
そのため、ヨーロッパ車など石畳やアスファルトで舗装された道路を走る車に乗ると、高いボディ剛性と硬い足回りで、日本車との違いを実感したものです(当然、早く壊れる事も多かったのですが)。
それでも硬い足回りはハンドルを切った時の反応も良くてレーシーだという事で、性能の良し悪しは抜きにして雰囲気だけで組む人も少なく無かったのです。
実際には、あまり硬い足回りだと路面の凸凹で跳ねるだけで、ろくに速く走れたものではなかったのですが(公道で本当に速く走ろうとする人にはサーキット用では無くラリー用の方が向いていました)。
どちらの足回りが最適か
そうした違いを把握した上で、乗っている車により「個性を持たせる」目的で足回りを交換するわけですが、その目的は人それぞれです。
とにかく車高が下がれば良い人、車高を下げた上で、レーシーな雰囲気を味わいたい人、車高や硬さを適度に調節して、自分の走りたいステージで最高のパフォーマンスを発揮させたいと思うような人。
ひたすら車高の低さを目指すVIPカーやバニングカー、キャルルックカーは別として、どんな人も「最高のパフォーマンス」を目指したいはずなのですが、実際にそこにたどりつける人は、そう多くはありません。」
現実には車高が下がった事による低重心化と、足回りを固めた事によるゴツゴツした乗り味やハンドルを切った時のクイックさだけという「雰囲気」で満足する人が多いです。
本格的なショックアブソーバーやスプリングは高いから…というのも理由の一つですが、本当のは「そのクルマに合わせた足回りやボディ、駆動系やタイヤまで含めたトータルセッティングができるチューナーが、非常に限られる。」事が最大の理由です。
今こそ日本のクルマ文化に求められる「チューナーとユーザーをつなぐ架け橋」
そうしたチューナーは数少ないわけではなく、意外と身近なところにいたりするのですが、大抵は小さなタイヤショップであったりレース屋の看板を上げているもので敷居の高さを感じてしまいます。
結果、手近で入りやすい大手のタイヤショップやカー用品店などで、足回りのメーカーから出荷されたままの「吊るし」のショックアブソーバーやバネを、マニュアル通りに組んだだけの人が多かったりします。
足回りだけでなく全体的にトータル・コーディネートされたクルマに一度乗るとヤミツキになるものですが、そうしたチューナーとユーザーの橋渡しをするコンシュルジュ的な存在が日本ではまだ少なく、クチコミでしか広まらないあたりが、日本で「本当のクルマ文化」が根付かない原因かもしれません。
今後はハイブリッドやEVの台数が増えて、動力系のチューニングが困難になるだけに、足回りのコディネートができるチューナーの役割は一層大きくなります。
皆さんも、良いチューナーに出会えると良いですね。