トヨタ小型FRスポーツの期待と、その歴史を振り返ってみましょう!
トヨタの小型FR「S-FR」に注目してみる
かなり以前からトヨタは「安価な小型FR、AE86の再来のような車」を作ると言われてきました。
何度も噂になっては実際に販売されたモデルを見てガッカリしたものですが、昨年の東京モーターショーではまたもや「S-FR」というニューカマーが登場しました。
今度こそ本当に安価な小型FRスポーツが誕生するのか、過去のモデルも遡って見てみましょう。
◆ 東京モーターショーで初見参「S-FR」
この角度から見ると、黒い背景、ブラックアウトされたルーフのため、オープンスポーツに見える「S-FR」ですが、そう見せたい狙いがあるのでしょうか。
またトヨタの小型FRがモーターショーに出品される、という話は出ていましたが、いよいよ現実になりました。
全長、全幅ともに切り詰められ、2+2シートとはいえ明らかに後席の居住性は考慮されず、普段は荷物置き場にしかならないシートレイアウトなど、いかにも「スポーツクーペ」です。
同クラスのFRであるマツダ・ND型ロードスターと比較すると、全幅が狭いものの全長は80mmほど長く、ホイールベースに至っては軽自動車より短いロードスターより170mmも長いので、軽快性よりは安定性に振った、ある意味トヨタらしいモデルというのが正直な感想になります。
エンジンについては発表がありませんが、86のようにスバルの水平対向エンジンを搭載してフロントタイヤの切れ角を確保するには全幅が不足していますので、通常の直4エンジンでしょう。
最近の流行に沿えばフロントミッドシップに搭載したいところでしょうが、この寸法だと前席をもう少し後ろにしないと難しい気もします。
このクラスのトヨタ2ドアクーペはFRならAE85/86が最後で、FFまで含めてもサイノス以来16年途絶えていますが、ここまでの「トヨタが出すと言われた安価なFR」の歴史を辿ってみましょう。
◆ アルテッツァに夢を見たあの頃
販売台数は伸び悩んだものの、数少ない高年式スポーツFRとして今もドリフトなどで活躍するアルテッツァ
最初に「トヨタがAE86の再来となる小型FRを作る」と噂になったのは、1995年頃の話です。
当初は「4ドアハードトップのカリーナEDは後継車がFRになるらしい」程度の話だったのですが、やがて「安価で購入しやすいFRセダンが登場する!」という記事が各自動車雑誌で踊りました。
しかし1998年、カリーナEDと入れ替わるように世に出たFRセダン「アルテッツァ」は、レクサスブランドでの販売も考慮された、豪華装備のブクブク太った鈍重な3ナンバーセダンだったのです。
私も試乗に出かけましたが、コースの途中でUターンした時にボディがグニャグニャ歪むのを感じで「これはエンジンパワーとボディのマッチングができていないので、ツルシのままではとてもスポーツ走行などできない」とガッカリしたのを覚えています。
やはりと言うべきか、発売直後から各チューニングパーツブランドから、ボディ補強パーツが続々とリリースされていました。
前評判と現実のあまりの乖離に日本国内での販売台数も泣かず飛ばずで、噂された派生モデルもスポーツワゴンの「アルテッツァ・ジータ」以外は世に出ず終わりました。
ちなみにレクサス名は「IS200」、そう、現在のレクサスISの初代モデルが「アルテッツァ」です。
◆ ダイハツ「FR-X」でも良かったと思う
当時は「これでダイハツチャレンジカップを走ったら楽しそう」と思っていました。
トヨタが「アルテッツァ」の前評判に困惑していたであろう1997年、まだトヨタの完全子会社では無かったダイハツがモーターショーに出品したのが、「FR-X」でした。
軽自動車用エンジンを輸出用に850ccにボアアップしてターボと組み合わせ、100馬力/12kgmを発揮するED型エンジンを縦置きに搭載したFRスポーツクーペです。
車重わずか750kgという軽量ぶりから、発売されればさぞかし面白い車になったと思います。
残念ながら市販されませんでしたが、18年たって「S-FR」の姿を見たときに脳裏を、この「FR-X」がよぎるのは私だけでは無いでしょう。
◆アイゴベースでKP61の再来のようだった「FRホットハッチコンセプト」
こういう形で作れるものなら、やってほしいと思いました。
アルテッツァが散々な販売台数に終わった後も、トヨタの小型FRの噂は続きました。
それがようやく形になったと思ったのが、2010年の東京オートサロンで発表された「FRホットハッチコンセプト」です。
今度はトヨタが欧州で販売しているコンパクトカー「アイゴ」をベースに、ダイハツの小型SUV/軽トラ系のパワートレーンを組み込み、これもダイハツの3SZ型1500cエンジンを縦置きに搭載した、本当の小型FRホットハッチでした。
かつての安価でレースでも活躍したFRハッチバック、KP61型スターレットの再来と喜ばれたものの、これもコンセプトカーで終わり、またもやトヨタの小型FRは空振りに終わります。
◆ 「86」は若者向けでは無かった
いい車ではあるのですが…もっと安ければと思います
2012年には、スバルの水平対向エンジンを搭載したFRスポーツクーペ、「86」が、スバル版の「BRZ」ともども発売されました。
このモデルもスクープ段階では安価な小型FRと騒がれたものの、完成してみれば豪華で高品質、当然300万円を超す高級FRスポーツクーペとなってしまいます。
モノは悪く無かったのですが、収入の少ない若者には容易に手が出せるモデルではありませんでした。
当然、「86」の販売直後から「AE86再来の大本命である1500ccクラスのスポーツクーペの開発が進んでいる」というスクープ記事が並ぶ事になったのです。
気が付けば、1995年に「小型FRスポーツが出る!」というスクープ記事が出てから、20年の歳月が流れました。
◆ S-FRの実現度やいかに
今度こそ、本当の安価な小型FRとして発売してほしいです!
過去のいろいろな思いを振り返りながら「S-FR」を見ると、品質こそ高そうなものの、ボディは大きすぎず、既存モデルの使い回しでも無く、コンセプトカーにありがちな過剰な装飾も無く、「現実に発売されそうな」といった雰囲気があります。
もっとも、1997年のダイハツ「FR-X」の現代版では無いのか、という想いはありますが。
それゆえに、「今回も残念ながら発売されませんでした。」という文字が頭をよぎります。大丈夫でしょうか。
実現するとなれば、マツダのロードスター相当の車である事や、税制の面から見ても1500cc以下のエンジンが載ると思います。
現行のトヨタ/ダイハツの縦置き1500ccエンジンと言えば、「ラッシュ/ビーゴ」や「タウンエース/ライトエース」に搭載されている3SZーFEエンジンがありますが、だいぶ古いので後継エンジンが登場しています。
おそらくは1500ccの2NR-FKEエンジンか、欧州への輸出も考えると、ダウンサイジングエンジンでオーリスにも搭載されている1200ccターボの8NR-FTSの縦置き版が搭載されるでしょう。
フロントの足回りはストラットでしょうが、問題はリアです。
リアもストラットにしてしまう手もありますが、コスト高に繋がる「S-FR専用の足回り」は難しいので、何かの流用という事になります。
以前ならダイハツの軽トラなどと同じ3リンクリジッド以外選択肢が無かったのですが、今は86のダブルウィッシュボーンがあるのでそれを採用するかどうか?
全幅が86よりだいぶ狭いので可能性は五分五分です。
とにかく豪華装備が欲しいユーザーには既に86があるので、「S-FR」を市販するなら、可能な限り何もかもオプションにして、シートなどももちろんビニールで良いですから、ライトバンのようにチープな内装にしてほしいところです。
レーシングベースモデルで150~180万円程度の価格になれば理想的ですが、いかがでしょうか。
トヨタが「S-FR」のプレスリリースで述べているような「日常使いの中でもクルマとの対話ができる」ためには、まず安価である事が大事で、6MTすらいらないと思うのですが、実際にリリースされた時に「またか!」とならないよう、今から強く祈っております。