【アメリカンマッスルカー】フォード マスタング マッハ1

当初のコンセプトから大きく姿を変えたスペシャリティカー

「実用車のプラットフォームにスポーツカー風のボディを載せて、安価にスポーツカーの雰囲気を楽しんでもらう」そのコンセプトは「スペシャリティカー」と呼ばれますが、その第1号だったのが1964年にデビューした初代フォード マスタングです。 後に初代トヨタ セリカなど日本をはじめ世界中のスペシャリティカー市場を開拓したパイオニアでしたが、その原型は全く正反対のクルマでした。 当初の「マスタング コンセプト」はミッドシップにフォード の大衆車タウナス用のV4エンジンを搭載した、ミッドシップスポーツで、ライトウェイトの純スポーツカーとしてフォードのイメージアップに貢献するはずだったのです。 しかし、当時のフォード副社長(後にフォード社長、クライスラー会長)リー・アイアコッカ氏から4人乗りで実用的なスポーツカールックのクルマに変更するよう求められました。 いわば、トヨタ MR2の先取りのような車が、量産の際にはセリカになっていたようなものですが、結果的には現在まで続く「マスタング」の伝統を作り出すことになったのです。

ハイパワーバージョン「マッハ1」

その当初、コンセプト通りに派手な動力性能は求めらなかったマスタングのエンジンラインナップは、2.8リッター直6または4.3リッターV8エンジンという(アメリカンスポーツとしては)地味なものでした。 どちらのエンジンもすぐ3.3リッター、4.7リッターに拡大されましたが、いずれにせよユーザーのハイパワー志向は強く、2:1の割合でV8モデルの販売台数が多かったのです。 これを受けて1969年にはモデルチェンジと解釈されることもありビッグマイナーチェンジを受け、レース用ホモロゲーションモデル(レース参加のため義務付けられた生産数をクリアするためのモデル)「BOSS」とともに、一般向けハイパワーモデルも追加されました。 それが排気量428キュービックインチ(7,013cc)、355馬力を発揮するコブラジェットエンジンを搭載した、「マッハ1」です。

ボンドカーにも採用

さらに1971年型マッハ1は名作スパイ映画「007」シリーズの「007 ダイヤモンドは永遠に」のボンドカーに採用されました。 アメ車のボンドカー自体も珍しいのですが、パトカーとのカーチェイスシーンでは脇道へのコーナリングでややパワーを持て余し気味にテールを振った後、車道から歩道まで使った、華麗というよりダイナミックなスラローム走行! さらに交差点ではパトカーをかく乱するため270度ターンというジムカーナさながらの走りまで見せています。 カーチェイスの最後には見事に片輪走行で狭い壁の隙間を走り抜けてパトカーを振り切るなど、何かアメ車の概念をどこかに置き去ったような華麗な走りは、007シリーズならではでしょうか?

栃木県警にも採用

名作映画から急にローカルな話題ですが、1973年モデルは日本の栃木県警に寄贈され、高速取締用パトカーとして配備されました。 寄贈したのはなぜか地元農協共済、つまりJA共済連栃木で、経緯は不明ですが、1972年に東北道が岩槻-宇都宮間で開通、さらに1973年には仙台南まで開通し、栃木県に高速道路時代が到来したのと関係あるのかもしれません。 ともあれ1984年まで使われた栃木県警のマスタング マッハ1は、現在は同県鹿沼市の免許センターに展示保管されています。 ボンドカーから栃木県警まで、あちこちで大活躍でしたねマッハ1!

次回は市販モデルでありながらほぼドラッグレース専用の化物マッスルカー、「ダッジ スーパーストック ヘミダート」をご紹介します。

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