カッコ良かったBMWの失敗作スーパーカー、M1
BMW初のスーパーカーにして、現在までリアルスポーツとして唯一のスーパーカーと言えるのが1978年に登場したM1です。 その名の通り現在のM2やM3といった「Mシリーズ」第1弾なのですが、M2~M6など他のMシリーズが既存車種をベースにしたハイパフォーマンス版なのに対し、M1だけはベース車が存在しません。 そこが「BMW M 唯一のリアルスポーツスーパーカー」たる理由です。 元々は1970年代に隆盛を極めたグループ4やグループ5といった、市販車ベースレーシングカーで戦われるレースで大活躍していたポルシェの牙城を崩すために開発されました。 それまで高級車市場でライバルだったメルセデス・ベンツと比較してスポーティさが売りだったBMWとしては必要なモデルでしたが、スポーツカーメーカーではない同社は、意外にもM1の開発に手こずります。 戦前からモータースポーツの世界で長い歴史を誇るメルセデス・ベンツと違い、当時のBMWにはスポーツカー開発のノウハウが無かったのです。 仕方なくイタリアのスーパーカーメーカー、ランボルギーニと提携して開発を進めたものの、かえってそれが災いしてさらに開発は遅延。 単独開発に切り替えてようやくデビューした時には、もう出場すべきレースが無くなりかけていたという、いわゆる「遅すぎた名車」の類です。 一応カッコイイ車だったことからF1の前座で行われたワンメイクレースでは好評を得たり、ラリーに出場したこともありましたが、本来得るべき栄光からはほど遠いものでした。 後にM1で培った技術はF1のエンジン開発などで役立ちますが、M1という名前や同種のスーパーカーは、以後BMWで作られていません。
スーパーカーにもラグジュアリーGTにもなれかった8シリーズ
M1以降長らくスーパーカーらしきものを作らなかったBMWですが、1989年にデビューした8シリーズは、V12エンジンをフロントに収めたロングノーズ・ショートデッキの典型的スポーツカースタイルの2ドアクーペでした。 リトラクブルライトなどスポーツカーとしての要素をしっかり抑えた同車にスーパーカーとしての期待は高まりますが、スタイルはともかく大きく重く鈍重な8シリーズは、格好だけでスポーツ要素皆無だったのです。 それでもポルシェ 928のように大型ラグジュアリーGTとして活路を見いだせれば良かったのですが、大きいわりに荷物の積載性が悪く、結局「何に使えばいいのかよくわからない車」になってしまいます。 実際にパっと見てもフロントは確かにスーパーカー風なのですが、妙に短くアッサリまとめられたリアに迫力が全く無く、スーパーカーとしてもGTカーとしても本気度が今ひとつうかがえません。 V8エンジンを搭載した廉価版やMスポーツやアルピナがチューンしたハイパフォーマンス版も作られたものの不人気一直線で、もっとも高性能を誇るはずだったM8もプロトタイプのみで市販は断念、1代限りで廃止されてしまいました。
ボンドカーとしても散々な扱いだったZ8
8シリーズ後継として1999年にデビューしたZ8は、BMW M製の高性能5リッターV8エンジンを収めた大型オープンスポーツ。 オープンスポーツはZ3で既に成功を収めており、高級ラグジュアリー・オープンスポーツは一定の需要がある市場だったため、BMWとしても今度こそという思いがありました。 ロングノーズで古風なデザインの大型オープンカーは確かにカッコ良かったので、映画007シリーズでもボンドカーに採用されています。 ほぼアメリカ向けと言えるモデルで今度はそこそこの成功を収めたのですが、右ハンドル仕様を準備しなかったことでイギリスや日本での人気は今ひとつで、ボンドカーとしても最後は敵のヘリに真っ二つにされるという壮絶な最後を遂げました。 前2作ほどではないにせよ、やはり成功作とも言い難かったZ8は2003年に後継車も無いまま生産を終えています。
スーパーカールックのハイブリッドスポーツ、i8
Z8から10年ぶり、2013年にデビューしたi8は昔のM1を思わせる非常に低い車高と前上方に開くBMW初のバタフライドアが採用、パワーユニットはリアミッドシップに配置された、それだけ聞くとスーパーカーそのものです。 しかし搭載されているのは1.5リッター3気筒ターボと一瞬耳を疑うようなエンジンで、それに加えてアシスト用のモーターと、フロント左右輪にもモーターを搭載してシステム出力362馬力を発揮するハイブリッドスポーツでした。 しかも充電可能なプラグインハイブリッドなので最大35kmのEV走行も可能で燃費良好なエコスポーツですが、あくまでエコスポーツであって、スーパーカールックは形だけです。 あくまでBMWが環境技術とスポーツマインドの両立をアピールするための広告塔的な車であって、スーパーカーとしての成功を目指すには、まだ時期尚早といったところでしょう。
BMWはスーパーカーが苦手なのか?
M1の項でも書いたように、BMWは高級乗用車メーカーとしてはスポーティなイメージがありますが、あくまでスポーツカーメーカーではありません。 そこは「スポーツカーメーカーでもある」メルセデス・ベンツとの大きな違いで、純粋なスポーツカーボディで成功したのは1996年デビューのZ3が初でした。 しかも、通常ラインナップしている乗用車やSUV、ミニとは異なり、スポーツカーやスーパーカーはいずれも何となく作っては成否に関わらず1代で打ち止めにして後継車を作らないので、車種ごとのブランドイメージを確立できていない面があります。 つまりBMWにとってのスーパーカーやスポーツカーとは、あくまで同社のセダンやクーペ、SUVなどをスポーティに見せるためのイメージリーダーに過ぎないのでしょう。 他に1989年にもZ1という、やたらと高いサイドシル(ドアシル)にドアを収納する変なオープンスポーツカーを約8,000台のみ作っているのを見ても、同社の市販スポーツカーへの姿勢が伺えます。 そう考えると、メディアが「BMW、次期○○を開発中!」「BMW、今度の○○は過去の○○の再来か?!」という見出しをつけるのは夢はありますが、BMWの本質を捉えられていないのかもしれません。 あくまで同社はその企業イメージそのものがスポーティであれば車が売れるのでそれで良く、本命のスポーツモデルも量販車ベースのMシリーズということなのでしょう。 苦手というよりも、企業として取り組み方が違うというだけと言えます。
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