みなさんはダイハツから販売されている車「アルティス」や「メビウス」を知っていますか?ほとんどの人が名前すら聞いたことがないのではないでしょうか。ですが、新車として売られている正真正銘の現行車種です。
これらは「OEM」によって製造・販売されている車であり、世界でも毎月数台のみしか扱われていません。一体、OEMとは何なのでしょうか?今回はOEMの意味と各自動車メーカーのOEM車一覧を見ながら、OEM車を購入するメリット・デメリットをご紹介していこうと思います。
OEMとは
OEM(Original Equipment Manufacturing)は他社ブランドの製品を製造することです。日本では「相手先ブランド名製造」と訳されます。先ほどのメビウスを例に出すと、その名の通り「トヨタが相手先ブランドであるダイハツの名前で車を製造」しています。つまり、実質的には「プリウスα」と同じ車を「ダイハツ・メビウス」の名前で販売しているわけです。
OEMを行うということは自社生産を行わないということです。これによってコスト削減や生産が追い付かないなどの状況を回避することができます。また、営業力が低い企業にとってはOEM先の営業力を活用することができます。
OEM車
日本の自動車メーカーの現行OEM車は以下の通りです。
これを見ると自動車のOEMはほとんどがダイハツ、スズキが供給元(OEM元)となっており、その多くが軽自動車であることがわかります。逆にダイハツとスズキには普通車のラインナップが少ないのでトヨタや日産からOEM供給を受けています。
販売台数では、OEM車がオリジナル車を超えることは多くありません。トヨタのカムリやプリウスαが月に1,000台ほど販売されるのに対して、供給先のダイハツ・アルティスやメビウスは5台ほどしか売れません(2019年1, 2月)。
とはいえOEM車(供給先)の販売台数が供給元を上回るケースもあります。トヨタのパッソはダイハツ・ブーンのOEMモデルですが、ブーンの4倍も売れています。またルーミー/タンクの販売数量はトールの6倍です。自動車全体の中でもルーミーの販売数量は6,962台でカローラ、シエンタに次ぐ3番目、タンクは5,420台で5番目でした。OEM車は売れないとは一概には言えないんですね。
そしてよく見るとホンダがいないことにも気づきます。その一方でスズキのエブリイワゴンは日産、三菱、マツダにOEM供給されており、実質的に同じ車を4社が販売しているのです。
自動車メーカーがOEMをする3つの理由
OEMを行う一般的な理由については触れましたが、その中でもなぜ自動車メーカーはOEMを行うのでしょうか?
①開発・生産費用をかけずに車のラインアップを充実させられるため
ダイハツやスバルを除く現代の自動車メーカーは事業をより効率化、合理化するために軽自動車の生産から撤退しました。しかし、その販売まで撤退すると今まで軽自動車を購入してくれていた顧客を失うことになります。それにより車の販売数が減少するだけでなく、ディーラーの収益において重要なその他の仕事(車検・点検、保険、修理など)も減ることになります。車のラインアップを揃えることで顧客が離れていくのを防ごうとしたのです。
供給元としても生産台数が増える分だけ1台にかかるコストが小さくなり、利益の拡大が見込めるというメリットがあります。
②他メーカーのディーラーに接触させないため
ラインアップが不十分だと商用車として、またセカンドカーとして軽自動車を所有したい場合に顧客が離れて行ってしまいます。つまり、他メーカーのディーラーに接触することになります。そして他メーカーの営業力が高かった場合、ファーストカーも乗り換えられてしまうおそれがあります。それを防ぐという意味でも、車のラインアップを充実させることが重要なのです。
③軽自動車は粗利が安いから
現代の軽自動車は機能がしっかり備わっており、価格の割に製造にかかるコストは高いのです。つまり、軽自動車販売で得られる粗利は小さいのです。
また、自動車メーカーは新車を開発するのに数十億から百億円のコストと約4年の歳月を必要とします。ですから、売り出したい普通車を製造する傍らでダイハツやスズキのように軽自動車の製造・販売に予算と熱量を注ぐ余裕はないのです。そのため、OEM供給を受けることで効率化を図ったわけです。
OEM車を買うメリット/デメリット
私たちがオリジナル車ではなくOEM車に乗るメリットやデメリットはあるのでしょうか?
メリット
①価格が同じ、または安い
気になるOEM車の価格について見ると、多くの場合でオリジナル車と同じ価格かそれよりも安価です。ダイハツ・ブーンとトヨタ・パッソの各同グレードを比べると、FFではどちらもほとんど同じ価格であり、4WDではパッソのほうがブーンより2~3万円ほど安い価格で販売されています。数万円の差が気になる人にとっては大切なポイントです。
(上)ダイハツ・ブーン CILQ GパッケージSA Ⅲ FF: 172万7,100円/4WD: 192万6,100円
(下)トヨタ・パッソ MODA Gパッケージ FF: 172万7,000円/4WD: 190万3,000円
また、OEM車を販売するメーカー(供給先)はできるだけ早くOEM車の在庫をなくしてしまいたいと考えています。やはりOEM車の需要は高くないですからね。そのため、供給元メーカーでは行っていない値引きやキャンペーンを行うことがよくあります。こうした面からもオリジナル車よりもお得に、しかも充実した装備で購入できるんですね。
②馴染みの販売店だから安心
ファーストカーと同じブランド、ディーラーでセカンドカーや家族の車を購入することで車検・点検などメンテナンスやアフターフォローをまとめて行うことができて便利です。また、値引きやカー用品をサービスしてもらえるなどのチャンスがあります。利益を得るのではなくラインアップを揃えることが目的の供給先メーカーでは大幅な値下げをすることも多いです。
そして、初来店の顧客に対して行うセールストークを受けずに済むというメリットもあります。逆に知りたいことがあるときには質問しやすい仲でもあります。
③購入できる店舗が多い
自分の住む地域にいつもの販売店しかない場合にも、OEM車を扱っていればそこで買えるので楽ですよね。
また、どこに住んでいても買えるというのもメリットです。トヨタの販売店は全国に約5,000店舗、ダイハツの販売店は774店舗です。供給先でOEM車を買えば、たとえ引っ越しなどで住む場所が変わっても同じブランドで引き続きサービスを受けられるので安心です。
④ある意味すごくレア
ダイハツ・アルティスやメビウスの月の販売台数は約5台。フェラーリの年間販売台数はおよそ700台、ランボルギーニが400台ですから、これらスーパーカーよりも考え方次第ではある意味レアです。
デメリット
①中古価格がオリジナル車より低い
OEM車を買うにあたっての最大のデメリットが「中古市場での価値が低い」ということです。中古車相場を比較するとメビウスはプリウスαの半額ほどに価格が下がることもあります。
もちろん、パッソはブーンよりも中古車相場が10~30万円ほど高いなど、オリジナル車よりもOEM車が価値を持つ場合もあります。注目すべきはその車の需要・人気がどれだけあるか、ということですね。
ですから、「4,5年乗ったら買い替える」という人にはあまりOEM車は向いていません。購入するとしても中古市場でOEM車がどれだけ需要があるかを調べましょう。一方、長年乗り続けるのであればどちらの中古価格も変わらないので、「10年は乗る」と決めている人はOEM車に乗るのも良いでしょう。
ちなみに、逆に中古でOEM車を購入するのはとても安くなるのでおすすめです。
②オリジナルほどバリエーションや装備が充実していない
基本的にはオリジナルと同じ車であるOEM車ですが、車種によってはグレード、色などのバリエーションや装備が本家に劣る場合があります。プリウスαには3列シートのミニバンタイプもありますが、メビウスは2列の5人乗りしか設定されていません。
そもそもラインアップを充実させるためのものですから、こだわりきれない部分もあるのでしょうが、購入者側としてはこだわりたいところですよね。「スペーシアには衝突被害軽減ブレーキがあるがフレアワゴンにはない」と言われたら戸惑います。
逆にマツダのキャロルはスズキ・アルトのオプション品を標準装備しています。OEM車ならではの特徴があるおもしろいケースです。
まとめ「OEMに乗っている人の印象は?」
みなさんはOEM車に乗っている人に対してどのような印象を抱きますか?「なんでオリジナルに乗らないんだろう…」と思ったことがある人、ない人それぞれいるとは思いますが、実はパッソやルーミーがOEM車だということすら知らなかったという人もいるのではないでしょうか。まずOEMというものすら初めて知った人もいるでしょう。それくらい、多くのドライバーにとっては気にかけてもいないことなのかもしれません。
ですから、価格やブランドや様々な条件から「OEM車に乗ろうかな」と考えている人がいたら、ぜひ乗るのが良いと思います。世界で月に5台しか出回らないうちの1台を、あなたが手にするかもしれませんから。