「幸せの国」ブータンで車に乗ると不幸になる⁈実は世界一のEV化推進国だった!

幸せの国・ブータン。その二つ名は、国の成長指標として国内総生産(GDP)ではなく、国民総幸福量(GNH)を最重要視することに由来します。国民総幸福量では①良い統治、②持続可能な社会経済発展、③文化の保存と推進、④環境保護の4つの柱を掲げています。現在叫ばれている「SDGs」を全世界に先んじて推進していることで注目を集めてきました。

そんなブータン、実は車の輸入が原則禁止されているんです。えっ、今どき?という感じですが、車は幸福度を下げるということなのでしょうか…。その一方で、国内には鉄道がないため移動には車が必要不可欠。それでいてブータンには全く信号機がありません。それが理由か、交通渋滞が問題にもなっています…。

そんな後発途上国のブータンですが、現在『世界一EV化を推進している』国だといいます。その実態は知るためブータンの最新の車事情を追ってみたくなりました。

ブータンの地理、移動手段と交通渋滞

ブータンの道路「車が転落する」

ブータンの車事情を抑えるためにも、その地理について軽く触れましょう。ブータンは北は中国、南はインドに挟まれるように位置する、面積約3.8万km²の王国です。これは日本の九州とほぼ同じ面積です。世界最高峰のヒマラヤ山脈を擁します。

ブータンには鉄道が走っていません。そのため長距離の移動では飛行機(空港は3ヶ所)か車を利用します。

ブータンの道路の特徴といえば、崖。ヒマラヤ山脈があることからも土地の標高差、道の高低差が激しいことは想像できるかと思います。地方には悪路が多く、自動車事故は衝突事故よりも崖下への転落事故のほうが多いといいます。「転落事故ではシートベルトを着用するほうが死亡率が高い」という通説から着用を義務付ける法律はなく、民間でも着用を勧めていません。

http://www.dragontours.jp/about_transport.html

ブータンの道路は総延長約8,000km、うち約5,000キロが舗装されています。年々道路の舗装は延長されているので、これで転落事故が減ることを期待します。

交通渋滞が激しいブータンの首都ティンプー

「幸福度」を重視するブータンではありますが、実際のところ経済成長も著しいです。世界銀行によると、ブータンのGDPは過去10年、毎年7.5%成長してきました。その結果、現在ブータンは交通渋滞に悩まされています。ブータンにおけるバスやトラックを含めた車の台数は過去20年間で5倍以上に増えています。とりわけ人口およそ10万人の首都ティンプーは若者の流入が盛んなこともあり、約4万台のガソリン車を抱えています。

交通渋滞の原因としては先述したように道路が未整備だということに加えて、ブータンには信号機がないということが挙げられます。交差点は全てロータリー式で、お互いに左側通行を守りながら譲り合っています。信号機の代わりとなっている唯一の場所がティンプーの交差点にあるブースです。このブースには警察官が立っており、合図を出して交通整理を行っています。

ブータンで唯一「交通信号」の役目を果たすブース

交通量が急激に増えた現状を考えると、信号機の設置は必須のことのように思えます。ですがここで信号機の設置に踏み切らないあたり、やはり“幸せ”かどうかを配慮してのことなのだろうかと考えさせられます。

なお、国連の「世界幸福度報告書(2019)」ではブータンは156か国中95位と思うような結果には至っていないようです。

世界で最もEV革命を推進する国・ブータン

ブータンの現在の目標

ブータンは現在、環境に配慮したゼロ・エミッション国家になるという目標を掲げています。首都ティンプーを走る4万台の車に代表されるように、そのほとんどはガソリン車です。ブータンはティンプー市民10万人の移動手段を化石燃料を必要とせず、クリーンエネルギーのみで賄う“クリーン・エレクトリックシティ”を目指しています。

その中核として自動車のEV化を推進しています。冒頭で「ブータンは車の輸入が原則禁止されている」と述べました。ここでいう車とは「化石燃料(ガソリン)車」のことで、これは2011年に輸入が禁止されました。実をいうと2014年に輸入は解禁されましたが、税率を高く引き上げることで輸入を抑制しています。

ですがEV(電気自動車)は例外です。むしろ輸入が促進されており、EVに関しては環境税、消費税、関税などすべての税金を免除しています。

日産とともにガソリン車をなくし、完全EV化へ

ゼロ・エミッション国家を目指すブータンの強力なパートナーが日産です。日産はブータン政府公用車、およびタクシー車両としてのリーフの提供を皮切りに、ブータンにおけるEVの普及に貢献しています。2016年3月時点で計52台のリーフが導入されています。

ブータンでは1990年代後半から水力発電を推進しています。水力発電によるクリーンエネルギーはブータン国内では利用せず、そのほとんどをインドに輸出しています。一方でインドからはガソリン用の石油を輸入しています。自国のクリーンエネルギーを有効活用することで石油輸入を少しでも減らしたいという考えがあります。

日産はブータン国内に充電スタンドを設置するサポートを行い、ブータン産の電力の有効活用の後押しを行っています。

また、ブータンは三菱自動車ともEV化について提携を結んでいます。日本の自動車メーカーが一国を挙げた取り組みの支えになっていることは誇らしい限りです。

いつまでにブータンのEV化は達成される?

EV化を中心としたゼロ・エミッション国家はいつ成立するのでしょうか。従来ブータンはインドから車(いすゞ車を中心とした日本車)を輸入してきました。そしてブータン社会はインドからの影響を受けて発展してきたという点からも、インドにおけるEV普及が大きなカギとなるのではないかと推測します。

インドでは「2030年までに完全EV化」を掲げていましたが、「同年までにEV化40%」に目標を修正しました。目標を下方修正したことは事実ですが、EVに対する取り組みは積極的に続いています。2023年までのEV普及率を15%以上とする目標を表明するなど、EVをはじめとする環境自動車の普及、市場拡大が期待されています。同時に充電ステーションの設置も進展しています。

全世界的にみると、ヨーロッパでは2040年頃にはガソリン車の販売が禁止されます。これを考えると、インドの完全EV化も2040年頃になるのではないでしょうか。ブータンの完全EV化もそれ以降ということにはなるでしょう。

ちなみに、ブータンには日産リーフだけでなくインド・マヒンドラ社のEVも導入されています。

ブータンに必要な今後の取り組み

その頃までにブータンの完全EV化を成し遂げるためには、道路やEV充電スタンドといったインフラがきちんと整備されていることが必要になります。また、免税措置があるとはいえブータン国民の所得を考えるとEVは高額です。補助金など購買意欲を高める政策を実施することが求められます(充電スタンドの設置も含め、国からの補助金の交付についてはいまだ検討中)。さらには自国、日本などの自動車メーカー、国際機関が連携することが不可欠です。

最後に・・・

ブータンでは国の成長指標として国民総幸福量を用いてきました。それは持続的な開発を軸とした、国民自身の心の満足度を表した指標です。ブータンという国はまだまだ“裕福”だとは言えません。ですが、少なくとも国民は”幸福”だと感じています。ブータンでの取り組みを手本として、世界にこのEV化の輪がどんどん広がっていくことは、世界のあらゆる人々が幸福になっていくことの象徴と呼べるのではないでしょうか。


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