同じサイズ、用途でも全く異なるタイヤの価格。グレードごとに何が違うのか、高価なタイヤを買う理由、安価なタイヤの理由を紹介。
とあるタイヤメーカーの同サイズ別グレードでの価格比較
一口に「タイヤ」と言っても、同メーカーで同サイズでもグレードによって高いものから安いものまであります。
タイヤショップやカー用品店などに行くと、展示スペースの類で同サイズでのタイヤ価格比較はなかなか難しいですが、インターネットの価格検索サイトを使うと簡単に比較できますので、今回試してみました。
今回比べてみたのはD社のタイヤで、サイズは「225/40R18」。
その実売価格を調べてみると、最安値は1本9,090円、最高値はなんと30,730円となりました!
同じサイズでも、何と2万円以上の開きがあり、3倍以上の価格となります。この差はいったいどこから来るのでしょうか?
一番高いタイヤは通称“Sタイヤ”
実は一番高いタイヤは少々特殊なタイヤで、“Sタイヤ”と称される、レーシング・セミスリックタイヤです。
「スリックタイヤ」というのは昔のF1なんかでも使われていましたが、溝が全く無く、乾燥して平らな路面であれば、接地面全てを路面との摩擦に使い、吸い付くようにして走れるタイヤです。
ただしそのままでは雨が降った時に水たまりなどで浮いてしまいますし、当然公道も走れませんので、レイン性能を強くするため通常のタイヤのように溝を設けたものが「セミスリックタイヤ」になります。
溝があるとはいっても普通のタイヤと比べると最小限で、かつスポーツ走行のために構造が強化してあり、使われているゴムも特殊です。
そのため、公道を走行可能なものの路面との摩擦力優先で摩耗は早く、特殊構造で高価、かつ本来は競技用のため、一般ユーザーは使わない事から生産本数も限られるのが、Sタイヤが高価な理由です。
輸入車は専用タイヤで
Sタイヤのような特殊なタイヤを除くと、乗用車用タイヤで最も高価なのは25,900円で、最安値の9,900円と比較すると2.5倍以上、16,000円も高いのですが、この高価なタイヤにも理由があります。
それは、このタイヤは「輸入車向け」という事です。
なぜ輸入車だけが特殊なタイヤかと言いますと、例えばメルセデス・ベンツやBMW、ポルシェなどドイツの高性能輸入車は、最高速度無制限のアウトバーンで、日本では考えられないスピードでの高速巡航を一般ユーザーが行います。
過剰なほどの動力性能や、強力なブレーキ性能はそのためなのですが、タイヤも当然それに対応し、超高速走行やその速度からのブレーキング・コーナリングなど、激しい走行に耐えることが必要で、日本車が履くタイヤとは全く異なる性能が求められるのです。
日本では高速道路でも制限速度100km/hなので、そこまでのタイヤは不要では?という意見もあるかもしれません。
しかし、高性能車の場合はそれに対応したクルマづくりをしているので、タイヤもその一部であり、純正タイヤとして高性能タイヤが装着されています。
安易に安いタイヤに履き替えてしまうと、乗り味が全く異なってしまうため、輸入車用タイヤは本国で装着される純正タイヤ同等の高い剛性を持ち、タイヤパターン(溝)も高速コーナリングに耐え得るものが採用されているのです。
このようにレーシングタイヤ同等の贅沢な作りがされているため、高価になっています。
操縦安定性を求めると少し高め
輸入車用タイヤに次ぐのは約22,000円のスポーツタイヤと、エコタイヤの中でも操縦安定性を重視したモデルです。
スポーツタイヤはセミスリックタイヤにはやや劣るものの、高い性能をもっているため高価なことはわかります。エコタイヤの中でも高価なものは、付加価値を追加してあるためです。このメーカーの場合ですと、タイヤゴムに特殊な吸音素材を用いており、ロードノイズ低減による静かな走りを目指しています。
このロードノイズというのはスポーツタイヤではあまり重視されずゴロゴロと派手な音を立てますが、静かで上質な走りを目指した車ほど、最後は車体の風切り音とロードノイズが気になるものです。
そこで、単にエコで低燃費な転がり抵抗低減だけを目指したものでなく、静粛性にもコストをかけたタイヤが求められる場合があります。
一般的なタイヤは基本形+αで差別化
グっと価格が下がって16,000~18,000円程度のタイヤになると、「エコタイヤ」「コンフォートタイヤ」「スポーツタイヤ」の3種類があるのですが、どれも基本となるタイヤから「エコ」「静粛性」「スポーツ走行性能」のいずれかを重点的に向上させたようなもので、ユーザーの嗜好に合わせたタイヤを準備した形になっています。
何かに尖らず、どれもソコソコの性能を持っているので、ユーザーがどれを買おうか、値段も似たようなものだけに、一番迷う価格帯と製品かもしれません。
最安値タイヤの理由
それでは最安値の9,900円のタイヤは何なのでしょう?
これは「型落ちの在庫タイヤ」です。
最新モデルが既に登場したものの売れ残ってしまったタイヤの特価販売で、このメーカーとサイズだとスポーツタイヤの型落ちモデルが該当するのですが、現行モデル約18,000円に対して型落ちだと9,900円と、半額近くに下がっています。
この場合性能的に劣るのはもちろんですが、ゴム製品であるタイヤは経年劣化に弱いのです。
どうしても新品時の性能は出なくなりますし、早く在庫処分したいので安いという事情ですね。
ちなみに別な意味での「型落ち」もありまして、メーカーによっては「型落ち」になったタイヤをあえて「セカンドブランド」のような形で生産を続け、現行モデルほど尖った性能は求めないけど、それなりにいいタイヤを安く買いたいというユーザーのために供給しているケースもあります。
何かが尖れば高くなるタイヤ
いかがでしたか?タイヤの価格に幅がある理由として、今回はD社の同サイズ・別グレードという比較で説明しましたが、異なるメーカー同士の比較や、別メーカーのグレード別比較でもだいたい同じ結果になります。
高いタイヤの場合は何か尖ったものを持っているという事で、エコなり静粛性なりスポーツ性なり、特別重視したい性能を望む場合は、多少高くてもその性能を尖らせたタイヤを買うのが正解です。
例外的に、「何かの性能がとても優れているけど安い」というタイヤが、特に輸入スポーツタイヤに多いですが、そうした車は路面との摩擦力(グリップ性能)は高いけども、タイヤの重量が重いですとか、対磨耗性が極端に劣るですとか、他の性能を極端に捨てて実現している事も多い、という点を最後に付け加えさせていただきます。