こちらは中国の高速道路。車線が50レーンから20レーンになるというゲートによって、地獄のような渋滞が引き起こされているという写真ですが、今回注目するところはそこではありません。この渋滞、よく見るとサンルーフがついた車が多すぎるのです。中国に在住している友人いわく、「とても中国らしい光景」とのこと。中国はサンルーフ車が多いな、というのは肌感でわかるほどの割合のようです。日本では絶滅危惧のサンルーフがなぜここまで人気なのか。中国自動車市場の特徴と、日本自動車産業の特徴を比較しながら説明していこうと思います。
なぜ中国人はサンルーフが好き?
自動車市場というのは、その国の風土や文化の影響を強く受けます。お国柄が出るということですね。アメ車が良い例だと思います。軽自動車やミニバンが異常に多い日本もかなりお国柄が出ている自動車市場でしょう。ということは、中国でサンルーフ車が売れるのにも何か意味があるのです。空が好きなのか、道路交通法の影響があるのか。気になって仕方ないですね。
サンルーフがステータス、豪華で自慢できる
一言で言ってしまえば「メンツ」です。おそらく、「高級車の特徴と言えばなんですか?」と中国人に尋ねると多くの人が「サンルーフが付いていること」と答えるでしょう。日本にも昔ありましたよねサンルーフブームが。あの頃は「サンルーフ=豪華でかっこいい」という風潮がありました。中国にもそのブームが来ているのです。中国は自動車が庶民にまで広く普及したのがつい最近なので、自動車を持っていることがステータスになり、サンルーフという豪華で目新しいものに注目が集まるのはもはや必然かもしれません。また、経済的に余裕が出てきた中国の富裕層が手を出しやすいラインが「サンルーフのオプションをつける」ことなのでしょう。
車を持たない人も多く、後部座席の居住性が大切
自動車が普及してきたとはいえ、車を持たない家庭はいまだに多く、友人などを後部座席に乗せる機会が多いのです。日本では一家に複数台車を所有しているパターンも多く、ドライバーが一人で乗ることもよくありますね。そうなると後部座席のオプションは全く意味を持ちません。反対に中国では後部座席を利用する機会が多いので、後部のオプションを充実させるわけです。
お年寄りのエアコン嫌い
サンルーフが採光性の次に持つ能力。それが換気です。サンルーフを開ければ一瞬で車内の空気を入れ替えることができます。中国は先ほど挙げたように後部座席に知り合いを乗せることが多く、それはお年寄りも例外ではありません。しかし、お年寄りはなぜかエアコンが嫌いなんですよね。機械で作る空気というのに抵抗があるのかもしれません。ただ、これに関して疑問なのが、「中国の空気ってPM2.5やらで汚染されているからエアコンのフィルター通した方がよくない?」ということです。窓を開けて換気なんてしたら気持ち悪くなってしまいそうです。残念ながら中国人が車内でどのように換気するのかというデータは見つからず、少しモヤモヤが残ります。
日本では時代遅れ…なぜなくなった?
日本にもサンルーフブームというのがありました。日本では高級車よりもコンパクトカーやミニバンで流行していましたが、最近はすっかり見なくなりましたね。ブームは過ぎていくものですが、良きものは残ります。何か原因があって時代遅れとなったのは間違いありません。その答えが見えてくれば、中国でサンルーフが流行っている理由と、これからどうなるかがわかってくるかと思います。
暑いし日焼けする
日本でサンルーフが流行した当時、UVカットなどの機能がなかったため車に乗っているのに日焼けするというデメリットがありました。また、日本の気候的に夏の猛暑で日差しが直撃するサンルーフは邪魔な装備でしかありませんでした。現在はシェードが付いていたりUVカット機能があるのが当たり前なのですが、サンルーフ=暑いというイメージが定着していますね。また、サンルーフに断熱材は入っていないため冬は寒くなります。夏は暑くて冬は寒い。エアコンを余計に使わなくてはいけません。
雨漏りする
サンルーフはふちのパッキンが劣化すると雨漏りします。購入した時はウキウキで開けていたサンルーフが、今となっては雨漏りするだけの窓となっている車が多いのです。サンルーフが流行していたのが1980年代ですから、ゴム製のパッキンは確実に劣化しています。
しかし、中国は自動車が広く普及するようになってからあまり時間が経っていないので、雨漏りすることに気づいていない人が多いのでしょう。あと数年もすれば、「サンルーフから水が垂れてきた!」というクレームが増えるかもしれませんね。
喫煙人口の減少
サンルーフの大きなメリットとして、素早く換気できるという点があります。車内で煙草を吸っても一瞬で煙が逃げて行きます。そんなこともあり、成人男性のおよそ7割が煙草を吸っていた1980年はサンルーフ車が大流行。しかし、現在は成人男性の喫煙者が3割以下にまで減っています。また、リセールなどから禁煙車であることの価値も高まり、煙草の煙を換気できるというメリットは無意味なものになりました。
中国では成人男性の2人に1人が喫煙者です。昔の日本のようにサンルーフが流行している理由は喫煙者の多さが原因でしょう。
後部座席もシートベルト着用に
日本では2008年に後部座席もシートベルトを着用することが義務付けられました。それまでは、後部座席の子供が車内を歩き回っていることも普通でしたし、サンルーフから顔を出している子供もよく見かけましたね。少々危険ですが、サンルーフにはそういった楽しみ方もありました。しかし、現在は危ないどころか法律で禁止されているのでそんな遊び方はできません。少なからず、シートベルト着用義務化でサンルーフを選ばなくなったユーザーもいるでしょう。
ステータスよりも実用性重視
中国自動車市場と大きく違うところがここです。日本ではすでに自動車が広く普及し、車を持っていることが当たり前となりました。自動車が日本人の生活に溶け込み、ステータスよりも実用性の高さで車が選ばれるようになりました。軽自動車やミニバンが流行っているのがその証拠です。今さらサンルーフをわざわざつけて自慢しても「それ必要なの?」と言われてしまいます。自動車が普及しすぎると、車の楽しさやかっこよさが忘れられていってしまいますね。
サンルーフが好きすぎてこんなことも
サンルーフが好きすぎる中国人。そのサンルーフ好きがこんなところまで影響しています。なかにはサンルーフによる悲しい事故まで…。中国は世界的に見てもかなり大きな市場です。車離れが続く日本の自動車メーカーには、この中国のサンルーフ好きをうまく利用して市場シェアを勝ち取って欲しいですね。
中国向けCX-8にはサンルーフオプション
マツダのCXシリーズ最上位モデルとしてラインアップに追加された3列SUV CX-8ですが、中国で生産されるものにだけサンルーフが付いているのです。サンルーフが人気なのは中国だけで、日本や欧米では需要がないというのがよくわかります。中国で車を売るには、中国仕様としてわざわざサンルーフをつけて開発しなければいけないのですね。
このままでは日本車が売れなくなる?
中国の中心地である北京では日本車をほとんど見ないそう。海外で人気の高い日本車が売れないのにはサンルーフ車がラインアップにないことも原因のようです。最近は中国自動車メーカーも技術力が高くなり、北京では中国産EV車がサンルーフをつけてよく走っています。中国車を買わない富裕層も、ベンツやBMWといった欧州車に手が出るようになったので、日本車はなかなか選ばれないようです。
サンルーフから身を乗り出し死亡事故
2018年11月1日、中国の江西省新余市渝水区の道路でこのほど、車のサンルーフから身を乗り出した少年が高さ制限バーに衝突し死亡する事故が発生した。現代快報が伝えた。
子どもが車のサンルーフから身を乗り出すハプニングはこれまでにも多く報告されている。今年4月には、湖南省の高速道路で子ども3人がサンルーフから乗り出した映像が話題になり、9月には広東省東莞市で幼い女の子がサンルーフから乗り出し車の上に仁王立ちする姿が目撃された。
日本もサンルーフが流行していた頃は同じようなニュースがありましたね。中国ではまだシートベルトを着用する意識が低く、後部座席ではこのように子供がサンルーフから乗り出すことがあるようです。柵や隙間によく挟まる中国の子供ですが、次はサンルーフに挟まるニュースが流れるかもしれませんね。