消滅した自動車メーカーその9はオートバイメーカーとしては現在も健在の名門、トライアンフです。
自転車メーカーから自動車メーカーへ
第1次世界大戦でイギリス陸軍などから大量需要があったこともあり、戦争後にはイギリス最大のオートバイメーカーにまで発展、1921年には4輪自動車の生産も始めます。
しかし、自動車メーカーとしては弱体だったトライアンフは、高級車やスポーツカーなど少量生産車メーカーとしての道を選択し、1930年代までには大排気量エンジンを搭載したスタイリッシュな高級車、華麗なオープンカーなどを送り出します。
しかし、それでも事業の不振で財政悪化に陥ったトライアンフは、創業事業である自転車とオートバイ事業を1936年に売却しました。
そのオートバイ事業が、現在まで残るトライアンフです。
その後も自動車メーカーとして存続したトライアンフですが、第2次世界大戦は第1次世界大戦のように切り抜けることはできず、1939年9月の開戦直前、7月には会社ごと身売りしてしまいます。
さらに1940年にはルフトヴァッフェ(ドイツ空軍)が仕掛けたバトル・オブ・ブリテン、英本土空襲作戦によって工場を完全に破壊されてしまい、全てを失ってしまったのでした。
最終的には戦勝国となるイギリスですが、第2次世界大戦はその大英帝国没落を決定づけ、その波の中でトライアンフも沈んでいったのです。
戦後、スポーツカーメーカーへ
戦後ジャガーに対抗できるスポーティな自動車を作るべく活動を再開し、1946年にはトライアンフ ロードスターが発売されました。
スポーツカーメーカーに転身した、新トライアンフの第1号車です。
戦時中の大増産計画で準備され、戦後は大量に余ったアルミニウム製の軽量ボディをまとったトライアンフ車は好評でしたが、戦時中の在庫が尽きると鋼材製ボディに転換します。
そして生まれたのが現在まで名高いTRシリーズの美しいロードスターでした。
1953年に登場したTR2に始まるTRシリーズは、TR3やTR4などが現在でも人気が高いヴィンテージカーですが、ほかにもライトウェイトスポーツのスピットファイアなど、数々の名車を生み出しています。
その一方でヘラルドなどクローズドボディのサルーンも作っていましたが、1960年代から始まるイギリス自動車メーカー再編の波に、次第に飲み込まれていきます。
再編で消えていったトライアンフ
1960年に親会社ごとレイランドに買収され、さらに他のメーカーも統合されて1968年にブリティッシュ・レイランド・モーターへと移行します。
有名なイギリス車のメーカーがこの頃に急激に減少したものの、ブランドはそのまま残されており、トライアンフもローバー・トライアンフ、あるいはジャガー・ローバー・トライアンフ部門として生き残りました。
しかし、それでも工場の稼働率は低くて採算も悪く、結局1981年にTRシリーズ最後のTR7とTR8が生産終了したことで、純粋なトライアンフ車は消滅してします。
最後にトライアンフのブランドで販売されていたのは、ローバーと提携していたホンダの4ドアセダン、バラードのイギリス版、トライアンフ アクレイムでしたが、その後継車はシビック系のローバー 200と命名されました。
現在はミニと同じくBMWがブランドを所有
1984年をもってトライアンフを名乗るクルマは消滅、ローバー・トライアンフ部門もブリティッシュ・レイランドの自動車部門ごと消滅してオースチン・ローバーグループとなり、ブランド名も消滅したのです。
現在、トライアンフのブランドはミニと同じようにBMWが所有しています。
そのため、ミニと同じようにBMWの手でいつかトライアンフの名を受け継ぐクルマが復活する噂は絶えませんが、2016年現在、その夢はまだ実現していません。
またいつか、イギリスからトライアンフの風が吹くかどうか、その全てはBMWに委ねられています。
次回は、「もうひとつの国産水平対向エンジン、コニー~愛知機械工業」をご紹介します。