日産とNASAのパートナーシップ」という驚き
何しろ相手はあのNASAです。
アポロ計画の頃から月面探査車を走らせ、火星探査でも2台の探査車を送り込んで、耐用期限を過ぎてからも火星表面の画像を送り続け、実に興味深い発見の連続をもたらしている。現在の地球上で「宇宙で車を走らせる事なら右に出るものはいない」とも言える組織なのですから、日産から教わる事はあるのでしょうか。
しかし、そこには同時に、NASAだからこそ行き着いた限界点と、今まさにそれを乗り越えようとする自動車メーカーという関係があるのでした。
初の無人探査車はソ連のルノホート
本来ならアメリカと競争するように推進していた月有人探査ミッションのために開発されましたが、アメリカに先を越され、月への宇宙船やロケットの開発も遅れた事から無人ミッションに切り替えられ、「ルノホート1号」と「ルノホート2号」の2台が送られています。
各種観測機器を搭載して遠隔操作で動くロボット車でしたが、1990年代にNASAが火星探査車を送るまでは唯一の無人惑星探査車でもありました。
初の有人惑星探査車はポルシェ設計
それ自体は探査機としての能力を持たず、月面に降り立った宇宙飛行士のための電気自動車として開発・製造されましたが、宇宙飛行士が運転できる反面、いざ故障すると着陸船まで歩いて帰らなければいけないため、無人車と比べるとかえって行動範囲が狭くなってしまったのです。
結果、探査用(特にまだ人類が降り立っていない星の探査用)としては無人車の方が向いているとされました。
火星に行った「スピリット」の教訓
基本的に無線での指示を受けて行動する無人探査車とはいえ、火星との距離は遠く無線の到達時間も長いため、探査車はある程度のコマンドを受け、指示された座標に向け自動運転でたどり着きます。
スピリットがスタックしたのは2009年5月のことで、「トロイ」と名付けられた砂地を通過する際に砂にハマって身動きがとれなくなり、やがて放棄されてしまいました。
もし、スピリットに備わった自動運転のためのセンサーと回避システムがもっと高度なものであれば、あるいはもっと活動可能だったかもしれません。
地球でも他の惑星でも「予測困難な状況への備え」が不可欠
まずは運転支援システムとして、カメラやレーダーなど各種センサーを使った、車間距離や走行レーン逸脱の監視システム、それに自動ブレーキ。
最初はプログラムされた通りの道路をプログラムされた範囲内で走れればよしとされた自動運転車は、その許容範囲が広い高速道路で、まず実用化にこぎつけます。
しかし問題はそこからで、一般道となると横から何が飛び出してくるかわからない、前に突然何かが倒れていた場合は、交差点で立っているのは消火栓なのか、道を渡ろうとしている子供なのか。
自動運転車にはさまざまな障害や危険を感知するためのセンサーと、それを回避するシステムが不可欠になりました。
そしてそれはまさに、遠い惑星で孤独な探査を続ける無人探査車にも必要なシステムだったのです。
地球の自動運転車は実証実験の頻度が段違い
中には特別な許可を受けながらではありますが、完全に自律した自動運転がある程度可能になったものもあり、特別に進捗している自動車メーカーのひとつとしてNASAが選んだのが日産自動車でした。
日産は、早ければ2016年中にも電気自動車「リーフ」に一般公道での自動運転も可能なシステムを搭載する予定で、日本政府が求める「2020年までの自動運転の実用化」に一番近いところにいます。
NASAは今後の無人探査車のため、この実証実験に基づいたデータが是非とも欲しいところであり、一方の日産も、これまでNASAが運用してきた無人運転車のノウハウが欲しいという点で利害が一致します。
これにより、NASAは優れた自律運転システムを持った無人探査車を火星や月に送り込めますし、日産も予定より早く、優れた自動運転車を開発する見込みが高まったと言えるでしょう。