「逆輸入車」といっても「海外市場の日本車を輸入」とはまた別
逆輸入車のコンパクトカーなどを日本市場で販売する事が増え、先日のスズキの新コンパクトカー、バレーノの発表でも「インド製の逆輸入車」である事が強調されました。
しかし、そもそも逆輸入車というのは意味合いが2つあります。
ひとつは今回のように、「日本市場で販売するためのクルマを、日本のメーカーが海外の工場で生産し、輸入販売する例。」です。
もうひとつの逆輸入車は「日本で販売されていない日本のメーカーのクルマを、輸入販売した例。」で、個人や専門店などが独自に並行輸入して、輸入車として登録する例があります。
後者の場合は必ずしも海外生産とは限りません。
たとえば北米でトヨタや日産が販売している、大排気量のV8エンジンを搭載した大型のミニバンやピックアップトラックは、現地生産されているものもありますが、日本国内で生産、輸出された後に、また日本に輸入されてくる「出戻り」という形の逆輸入車もあります。
以前は逆輸入と言えば後者を指しており、海外生産車は特に逆輸入車と呼ばれていなかったのですが、最近ではマスコミを中心に、海外生産車を主に「逆輸入車」と呼ぶ傾向があります。
過去の逆輸入車(海外生産車)は、市場からの要望が左右していた
「海外生産の日本車を輸入する」という逆輸入車でも、昔は意味合いが若干異なりました。
日産 ミストラルのように、クロカン4WDブームの時代に、当時の無骨な主力クロカン、テラノ(海外ではパスファインダーとして現在も販売中)を補うヨーロピアンシティオフローダーとして一過性のブームを補う意味で、スペインの工場で日本仕様を生産した、という例もあります。
また、ホンダ シビッククーペや同 アコードワゴンのように、ユーザーからの要望に応じて北米での人気モデルを輸入販売した例もあります(USアコードワゴンなど左ハンドルのままでした)。
トヨタがアバロン→プロナードと代が変わると名前も変えて販売していたFF大型セダンは、当時の日本では存在しなかった「大人6人がゆったり乗れる前後ベンチシートのセダン」というコンセプトが日本でも売れるかどうか、実験的な意味で正規輸入販売されました。
中にはトヨタ キャバリエのように、GMがシボレー キャバリエとして作ったクルマを当時の貿易摩擦(日本の一方的な貿易黒字による不均衡)を解消するための圧力で、仕方なくトヨタ車として売っていたケースもあります。
これら過去の逆輸入車の中でもミストラルやUSアコードワゴンのように、市場からの強い要望のあったものはある程度成功を収めましたが、メーカーの思惑などがあって輸入されたクルマは、どれも成功していません。
逆輸入車が増えた現在の事情
それでは現在の逆輸入車はどうでしょうか?
ホンダがトヨタ プラッツと競合するモデルとしてタイで生産した、フィットの小型セダン版のフィットアリア(2002年)や、 トヨタが生産中止となったビスタ後継として、ネッツ店に統合直前のビスタ店で販売するためイギリスから輸入したアベンシス(2003年)というケースが、現在の「逆輸入車」の始まりでしょう。
両者に共通していたのは、「日本で生産するほどの市場規模が無い、あるいは販売目標台数の無いクルマを、海外生産でまかなった」というメーカー事情です。
イギリス製のアベンシスは、ヨーロッパ仕様というのがウケてそこそこ売れましたが、フィットアリアはそもそも小型セダンの需要が少なかった事もあって、大成せずに一代限りとなりました。
その後の逆輸入車もおおむね同じような経過をたどり、スズキのスイフトより小さいハンガリー製コンパクトカー、スプラッシュのようにヨーロッパ仕様の固い足回りが評価されるようなケースもありますが、そもそもメーカーの側としても「本当に売れると思っているなら、日本仕様を国内生産する」ものです。
実際のクオリティはともかくとして、メーカー自身が発売後にそれほど売る気が無い、販売促進を行わないモデルがほとんどなので販売台数が伸びず、それがたまたまタイなど東南アジア製だったものですから、「東南アジアなど新興国で生産=売れない=何かが悪いに違いない」というイメージが何となくできてしまいました。
ライトエース/タウンエースのように成功例も
そのような中で、日産が2010年にマーチ、三菱が2012年にミラージュと、相次いで主力コンパクトカーをタイでの海外生産に切り替えます。
そして両者とも、最初から極端な販売不振に悩まされる事となりました。
必ずしもタイ製である事ばかりが理由ではなく、デザインが日本人向けでは無かった、軽自動車の爆発的ヒットと重なり、Aセグメント(日本ではリッターカークラス)のコンパクトカー市場が縮小していたという事情もあります。
実際、2016年4月14日に発売されたトヨタ パッソ/ダイハツ ブーンも、それぞれ月販目標台数がパッソ5,000台、ブーン1,000台と新型量販車としてはかなり控え目な数字です。
とはいえ、「タイ製の逆輸入車が売れなかった」という事実だけは残ってしまったので、今後も新興国製の逆輸入車については、ブランドイメージとしてちょっと辛い時期が続くのは確かです。
しかし、そんな新興国生産のクルマでも成功例が無いわけではありません。
トヨタの小型商用バン/トラックのタウンエース/ライトエースがそれで、現行モデルは2008年からダイハツのインドネシア工場で生産している逆輸入車ですが、販売は好調です。
名前はともかく中身はダイハツ ハイゼットバン/トラックの拡大版なので、先代のタウンエース/ライトエースからは一回り小さくなってしまい、その点で当初はユーザーからの批判もありました。
しかし、代わりのクルマが無いとなれば否応は無く、先代タウンエース/ライトエースと同クラスの日産 バネットNV200やマツダ ボンゴバン/トラックに顧客が流れるわけでも無かったのは、トヨタがインドネシア製である事を強調しなかった事と、商用車ゆえに大きな問題にならなかったかもしれません。
とはいえ、タウンエース/ライトエースが現在までのところ唯一成功した「新興国生産の逆輸入車」には違いが無いので、各メーカーはその成功から学ぶところは大きいと言えるでしょう。
ヨーロッパ製は成功する傾向
以上は最近多い東南アジアやインドなど新興国で生産された例ですが、対してヨーロッパ製の逆輸入車は比較的好評です。
ホンダは初代シビックタイプR(EK9)でハッチバック型のシビックタイプR国内生産を打ち切り、以後は4ドアセダンの3代目シビックタイプR(FD2)を除き、2代目ハッチバック(EP3)、FD2と同時期の3代目ハッチバック(FN2)、現行の4代目ハッチバック(FK2)と、全てイギリス製の限定車です。
これらは2代目を除き、「シビックタイプR」と言ってもフィットをベースにした3ドア/5ドアハッチバックなので、昔からのシビックの系譜には属していませんが、ユーザーからの強い要望に応じて販売している事と、ヨーロッパ製という安心感やブランドから、好評を得ています。
前述の日産 ミストラルや、同時期のパルサー、プリメーラの5ドアハッチバックもそうでしたが、ヨーロッパ製はそれだけでブランドになるという例でもあり、逆輸入車としての価値も高いものとなっているのです(ただし、部品などは輸入関税がかかって高いので、中古車市場での人気は高くありません)。
日本で販売されている数少ない国産ブランドのスポーツカーという事情もありますが、その意味では米国での生産となる新型ホンダ NSXが、日本でどのような評価を受けるかにも注目です。