ホンダ・ツインカムを、そしてVTECを超えたエンジン
1995年10月、ホンダは1台のスポーツカーを世に送り出します。 それは、「インテグラ・タイプR」です。 3ドアのDC2、4ドアのDB8双方に設定されたスポーツグレード、SiRのさらに上を行く「究極のスポーツグレード」それがタイプR。 タイプRそのものは既にNSXで設定されてはいましたが、所詮はスーパーカーのさらにハイパフォーマンスモデルであり、一般のドライバーにそうそう手が届くモデルではありません。 しかし、ミドルクラス大衆車ベースのスポーツクーペ/セダンであったインテグラは少し頑張れば誰でも届く価格帯の車であり、そこに「B18C specR」というエンジンが搭載されました。 これこそが、今に至るまでタイプR願望に縛られることとなる、原罪とも言えるエンジンでしょう。
手作業によるポート研磨と、F1並のピストンスピード
特にその初期、B18C specRは「職人が手作業でエンジンのポート研磨を行い仕上げを行っていた特別なエンジン」として話題になりました。 職人が手作業で全てを組み立てるメルセデスAMGのエンジンほどでは無いにせよ、それはホンダの魂が込められたエンジンであり、そして当時のF1並のピストンスピードを持ち、ハイパワーとトルクを両立した高圧縮比・高回転ロングストロークエンジンの究極系だったのです。 これにより、標準のB18Cエンジンに対して以下のようなスペックを得ました。
このエンジンを搭載したDC2/DB8型インテグラタイプRは、あらゆるステージで無敵の存在となり、1,600~2,000ccクラスのマシンに乗っていた人々はこぞって乗り換えていったのです。 デビューから22年が経つ2017年現在においても、後継車のDC5型インテグラタイプRを含め、未だにこのクラスでDC2/DB8を上回るマシンは登場していません。
決定的な第2の罪、B16B
さらにホンダは1997年、シビック用にも「究極のエンジン」を開発。 このB16Bエンジンを搭載したEK9シビックタイプRもまた、DC2/DB8インテグラタイプR同様、「代え難い存在」として1,600cc以下最強マシンとして君臨していくことになります。
エンジン比較B16AB16B行削除馬力170馬力/7,800rpm185馬力/8,200rpm行削除トルク16.0kgf・m/7,300rpm16.3kgf・m/7,500rpm
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B16Bはそれまでターボエンジンで1,600㏄クラス最強を誇ったいすゞ4XE1-T(ジェミニ・イルムシャーRに搭載・180馬力)の馬力をNAで上回り、その時点で1,600㏄最強エンジンになりました。 後に日産がSR16VEで200馬力を叩き出したものの、搭載したパルサーVZ-RはEK9シビックタイプRほどの戦闘力を持たなかったため、影の薄い存在になっています。
ホンダの「タイプR呪縛」というパンドラの箱を開けたエンジン
この「B18C specR」と「B16B」のエンジンは確かに当時のホンダ車をモータースポーツ最強に押し上げはしたものの、それだけでは済みませんでした。 それ以降、メディアはホンダがデビューさせるあらゆる車種に対して「次はどの車にタイプRが設定されるのか」だけに興味を持つことになり、それが実際には設定されないことで、期待していたユーザーに失望をもたらしました。 インテグラとシビックもタイプRの設定が前提となってしまい、タイプR以外の車種は「つまらない型落ち車」としてユーザーが興味を持たなくなってしまったのです。 いわばホンダは、「大衆車ベースのスーパースポーツカーを作ったことで、本来の大衆車としての魅力を損ねる」結果を生み、現在に至るまでこのクラスの保守的なセダンやクーペを復権できていません。 日産がGT-Rのためにスカイラインがどのような車であるべきか見失っていったように、ホンダもタイプRで道を見失ったと言えるでしょう。 幸いだったのはオデッセイやステップワゴンといったミニバン、CR-VなどのSUVがヒットしたので日産ほど経営悪化に悩まず済みましたが、今でもホンダのセダンやクーペは、発売してもトヨタのような保守層に受け入れられず、常に不振を強いられています。 過剰な性能でホンダ自らの道を狭めたタイプRとは、開けてはいけないパンドラの箱だったのかもしれません。
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