労働者向けの安価で高品質な車、モーリス マイナー
第2次世界大戦前から成功していたイギリスの自動車メーカーといば、モーリスです。 モーリスといえば、1920年代末の世界大恐慌時代を乗り切った小型車の名作マイナーなど「高品質で安価な車を作る」として評判でした。 第2次世界大戦後の1948年、やはり戦争中の痛手からまだ立ち直り切っていないイギリスで労働者向けに高品質で安価な車、つまりかつてのマイナーと全く同じコンセプト、全く同じ車名で2匹目のドジョウを狙ったのが新しいモーリス マイナーです。 先進的なモノコック・ボディにフォルクスワーゲン ビートルのような円弧を巧みに組み合わせてボディ強度を確保し、十分な車内スペースを確保した上で初期型は安価なサイドバルブエンジンを搭載するなど、コスト削減にも力を入れていました。 マイナーは目論み通りヒット作となり、1940年代末期から1960年代にかけてイギリスの代表的な大衆車となったのです。
設計者はあの有名なアレック・イシゴニス
低コストで安価な車を作り上げるために、新技術と既存技術を巧みにまとめ上げるその手法や丸目2灯のヘッドライトとフロントグリルの配置に「どこかで見たような」という印象を持つかもしれません。 それもそのはず、あの「ミニ」(旧ミニ)で自動車史に偉大なる足跡を残した名設計者アレック・イシゴニス最初の成功作が戦後型マイナーだったのです。 戦前、モーリスに入社していたイシゴニスは、ライバル社のオースチン セブンをベースとしたレーシングマシン製作にも熱を上げており、750~1,100ccクラスの小排気量車を得意としていました。 大戦中、戦争の行く末が見えてくると戦後に主力となる車の開発プロジェクトが始まりイシゴニスもその作業に没頭していましたが、その中で最も成功したのが小型小排気量のマイナーだったのはむしろ当然かもしれません。 マイナーは後のミニと違ってそれほど画期的なメカニズムを搭載していたわけではなく、戦前のモーリス エイト(戦前型マイナーの後継車)から918ccサイドバルブエンジンを流用したオーソドックスなFR(フロントエンジン・後輪駆動)車でした。 しかし、戦前型メカニズムで安価な車を作るという目的にはもっとも適合しており、これ以上の小型低価格と実用性を両立しようとして悩んだ末、あの独特の構造を持つFF(フロントエンジン・前輪駆動)車・ミニになったと思えば納得です。
ミニにも受け継がれた味のある木枠のマイナー・トラベラー
このマイナーで人気の高いモデルは、全鋼板製車体でありながらに荷室を木枠で覆うという独特なデザインのマイナー・トラベラーでしょう。 後のミニでも同様の手法をとったミニ・カントリーマンが登場したもので両者が混同されることもありますが、もちろん大きさはミニより一回り大きくより荷物を積めるようになっています。 湿気でキノコが生えるところなど、ネガティブになりかねない部分がかえって味があると評判のこの木枠、何といまでもちゃんと部品が出るというから驚きです。 また木枠で囲ったラゲッジではなく、ピックアップトラック版に側壁と屋根を持たせたマイナー・バンもあり、ガラス窓つき・窓なしとあります。 この窓無し仕様バンも後にミニ・バンとしてミニに受け継がれており、同じ設計者が作ったマイナーはまさにミニの兄貴分だったことがわかります。
作りに作った160万台、今でも部品が出るという
マイナーは1961年に生産累計100万台に達し、英国車として初のミリオンセラーになりました。 コンバーチブルやサルーンは1970年までに、トラベラーやバンは1972年までに生産を終えましたがそれまで160万台ものマイナーが作られています。 現在でも世界的にはミニと並んで愛好家の多い車で、前述のトラベラー用木枠に留まらずイギリス本国やアメリカなどで未だに部品のストックや生産が行われているため、多少時間がかかっても欠品で維持に困るということは無さそうです。 あるいはそういった「古くとも魅力的な車をいつまでも維持できてしまう」のがイギリス自動車工業会衰退の原因だったかもしれませんが、自動車を決して消耗品とみなさない車好きにとっては嬉しい話ですね。 誰にでもわかりやすいミニも良いのですが、ミニの元祖的存在と言えるモーリス マイナーで、あなたも古のイギリス自動車文化を味わってみませんか?