ミニカーブームと同時期に生まれた「スリーター」
50ccのミニカーブームが起きて、街のあちこちで簡易的な自動車「ミニカー」が走っていた頃、ホンダでは「もっと本格的な2輪寄りの3輪車」を開発していました。
1981年にデビューしたそれが、エンジンを搭載した並列2輪のリアセクションは常に水平を保ちつつ、それ以外の部分はユニバーサルジョイトで結合されて、通常のバイクのように傾けて走る3輪スクーター、ストリームです(後の四輪車のミニバン、ストリームとは別)。
特異な形状と機構を持っていたリアセクションを除けば、純粋にスクーター然だった外見で、フロントにはちょっとした荷物が積める小さなトランクがついている程度でした。
しかし、ミニカーよりさらに軽快で二輪車よりはるかに安定しており、かつ原付スクーターを同じように乗れる事から「スリーター」という新ジャンルを開拓してユーザーから好評を得ます。

配達用バイクの概念を変えた「ジャイロX」
翌1982年には、ストリームのオフロード版「ジャイロX」が登場。
車体の頑丈さとフロントキャリア、リアキャリア合わせて15kg(オプションのインアーボックスまで合わせれば16.5kg)という優れた積載性から業務用配達用途としてヒットし、マイナーチェンジを重ねながら現在まで販売されているロングセラーモデルとなりました。
外観は無骨で、原付でありながら車重が100kgを超える重量級ボディなため、加速性能など動力性能には見るべきところはありません。
しかし、リアセクションとの結合部分をロックする事で水平のまま駐車できること、後輪が2輪のため雪道や軟弱な路面でも転倒しにくく、降雪地帯でも安定性が高い事から、都市部に限らずあらゆる地域での配達業務に非常に向いているというメリットがありました。
国内唯一の屋根付きスリーター「ジャイロキャノピー」
そして、ジャイロXには個人向けの軽量簡略化版(JOYやジャスト、ロードフォックス)のほか、荷台を大型化した「ジャイロUP」などのバリエーションを経て、1990年ついにビジネス用途の決定版「ジャイロキャノピー」が登場します。
それ以前にもジャイロUPなどで社外品を装着できたキャノピー(屋根)を標準装備したもので、フロントカウルから上に伸びたフトントウィンドーにはワイパーとウィンドウォッシャーが装備され、フロントウィンドーと座席後ろの柱で支持された屋根を装着した事で、天候を選ばず配達業務ができるようになりました。
かつてのミニカーのように側壁やドアこそ無いものの、それらがあっても曇り止めの空調が無いので実用性に欠けたミニカーに比べればはるかに実用的で、このジャイロキャノピーをもって「既に日本では超小型車が普通に使われている」という見方すらできるほどです。
税抜で50万円を切るという価格も、スクーターとして考えれば高価ではありますが、超小型車として考えた場合は十分に安価であると言えるでしょう。
「スリーター」のネガティブを消すミニカー登録
ただし、スリーターはそのままではあくまで「原動機付自転車」すなわち原付バイクに過ぎません。
そのため、普通自動車運転免許を持たず、原付免許だけで運転できるというメリットはあるものの、超小型車としてはそのままでは走行に難がある場合があるため、ミニカー登録をすれば立派に「超小型車」としての要件を満たします。