ジェット戦闘機を改造!時速1600キロ超を目指す!「ブラッドハウンドSSC」の挑戦

人間はとにかく「速さ」を競います。人間自体はもちろん、飛行機でも車でも。
そして車で一番速く走ろうとした時「飛行機で走ればいいんじゃないか?」と思いつくのは必然かもしれません。

実験車以外での最高速

 2014年に最高速度で「ブガッティ・ヴェイロン」を超えた「ヘネシー・ヴェノムGT」

飛行機の最高速度を追求する際は「空気」という障害のことを考えなければなりませんが、 地上を走る乗り物の場合は「空気」だけが障害になるわけではありません。

磁力で地上から浮揚するリニアモーターカーなどを除けば、車輪による地上との「摩擦」が発生するからです。
当然、摩擦が少なければ少ないほど最高速度を出すには有利になりますし、車輪が頑丈であれば摩擦熱にも強くなります。

そのため、鉄の車輪でレールの上を走る鉄道の方が最高速度では上回っていました。
現在の鉄道の最高速度は、フランスの高速鉄道「TGV POS」で、2007年のテストで574.8km/hを記録したのが最速です。

対して自動車の市販車で最速なのは、時速270.49マイル(435.31km/h)を叩き出すアメリカの「ヘネシー・ヴェノムGT」で、ギネスブック記録としては「ブガッティ・ヴェイロン・スーパー・スポーツ」の431km/hが続きます。

これらは直線道路(大抵は滑走路を使います)の長さに余裕があればさらに加速できるらしく、「ヴェノムGT」の2016年モデルでは1451馬力にパワーアップされて設計上の最高速度は450km/hに達するとの事です。

しかし、最高速度が400km/hを超えると特殊な素材を使ってもゴムタイヤでは熱への対処が難しいので、革新的な素材が登場しない限りは500km/h台突破は難しいかもしれません。

速く走るために、結局飛行機に行き着く

 戦闘機「F86セイバー」のJ47エンジンが搭載された速度記録車「スピリット・オブ・アメリカ」

自動車がゴムタイヤの限界以上に速く走るためには、タイヤを金属製など熱に強い素材に変えれば良いのです。
ガソリンエンジンに限界があるのならば、他のエンジンを使えば良いのです。
タイヤが熱に持ちこたえたとして、車体に対する空気抵抗が問題になるならば、いっそ飛行機を走らせればいいのです!

しかし飛行機である以上、翼があるままだと速度を出せば揚力で飛び上がってしまいます。
そして飛び上がらないようにダウンフォース(空気抵抗を利用して地上に押し付ける圧力)をかけると、最高速度が落ちてしまいます。

そのため、翼が無くて、強度上の問題も無く、胴体だけならほとんど揚力が発生しない飛行機が求められました。
その結果ロケットのような飛行機に白羽の矢が立ちました。

それがアメリカのロッキード「F-104スターファイター」です。

ベース機のF-104とは?

航空自衛隊の主力戦闘機だった事もあるF-104J「栄光」

1950年代に初のマッハ2級戦闘機として開発されたF-104は、その素晴らしい上昇性能と最高速度から「最後の有人戦闘機」と呼ばれていました。

それ以上の性能を求めるなら、もう人間の方が耐えられなくなるだろう、という意味も込めてです。

しかし、現実のF-104は高性能をギリギリの設計で得ており、後から何か追加装備をしようとしても機内スペースや重量に余裕が無いという、かつての「零戦」のような欠陥を抱えていました。

そのため、開発したアメリカの空軍では使い道が無く早々に退役してしまったのです。

しかし、多少の欠陥はあってもその性能で十分という国で多数が採用され、航空自衛隊でも1960年頃から1990年代初めまで迎撃戦闘機F-104J「栄光」として使われていました。

「空飛ぶエンピツ」とも言われた外観はとにかくクリーンで、翼が無ければロケットのようで、見た目で何を狙っているか、とてもわかりやすい飛行機だったのです。

1980年代に入って現役を退くF-104が増えたので、そのうちの1機を改造する速度記録車が作られたのは当然かもしれません。
それにしても、「スターファイター」という名で開発された戦闘機が、宇宙ではなく地上で最高速を狙うというのも面白い話です。

目指せ超音速!スラストSSC!

イギリスの最高速チャレンジチームが改造に取り掛かったF-104改造速度記録車は、主翼を撤去して尾翼の形状を改め、胴体の両脇にはイギリスのロースル・ロイスが誇る戦闘機用ターボファンエンジン「スペイ」が装着されました。

この「スペイ」もイギリス海軍で使われていた艦上戦闘機「ブリティッシュ・ファントム」(米国で開発され、航空自衛隊でも現在使用中のF-4ファントム戦闘機のイギリス版)と同じものです。

地面に這いつくばるようなボディと両脇のジェットエンジンに車輪を装着したマシンは「スラストSSC(スーパーソニックカー)」と命名され、アメリカ・ネバダ州のブラックロック砂漠に向かいました。

何度か記録に挑んで数回に渡り亜音速(音速の一歩手前)に達した後、1997年10月15日、ついに時速763.035マイル(1227.99km/h)に達して地上での音速「時速746マイル(1200.57km/h)」を越えました。

「史上初の超音速自動車」誕生です!

さらなる速さへ、ブラッドハウンドSSC!

史上初の動力飛行(ライト・フライヤーI)も史上初の動力飛行のみでの音速突破(ベルX-1)もそうでしたが、一度達成されればもうアッサリしたもので「それは頑張ればできる事」程度になります。

その意味で、何事も「最高記録」というものは登山に似ているかもしれません。

前人未到の最高峰でも、一度誰かが登れば「そこは登れる山」と次々に登山者が押しかけるのと同じです。

さすがに「スラストSSC」のように、ジェットエンジンを吹かして戦闘機を地上で走らせ、音速を超えようという人はあまりいなかったようで、同じチームがその後も最高速度記録を狙う事になりました。

その名も「ブラッドハウンドSSC」です。

今度は中古戦闘機ではなく新設計され、カーボンとチタンで構成されたボディに最新戦闘機用のジェットエンジンとブースト用のハイブリッド・ロケット・モーターを装備。

ロケット・モーターの固形燃料に反応させ、爆発的な推力(押し出す力)を得るため液体燃料を圧送するのですが、そのためだけにコスワース・チューンのV8エンジンが搭載されるという豪華装備です。

ジェットエンジンとロケットエンジンは上下2段に搭載されていますが、推力の異なる2つのエンジンを「スラストSSC」同様に左右配置とするのは危険なゆえでしょう。

目指す速度は「スラストSSC」を大幅に上回る「時速1000マイル(1609.34km/h)」で、「1000マイルカー」と言われています。
これは地上での音速の1.3倍、すなわちマッハ1.3です!

ブラッドハウンドSSCは、2015年中にイギリスでテスト走行を行ったあと2016年に南アフリカで時速1000マイルに挑む予定です。

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