旭化成名誉フェローの吉野彰さんら3人が「リチウムイオン電池の開発」でノーベル化学賞を受賞されました。
おめでとうございます!研究者のみなさんの活躍が私たちの未来を切り拓いてくれているんだと改めて実感しました。
「未来を拓く」といえば、吉野さんはインタビューの中で「リチウムイオン電池によってモバイルIT社会が実現し、世界が変わった。これからは電気自動車への応用も含めて、リチウムイオン電池は環境問題に対しての答えを出していく使命を帯びている」と話していました。
「電池」というのは理解できますし、電気自動車に使われているということはなんとなく想像できます。
ですがその実態は何なのかよくわからないという人も多いのではないでしょうか?
リチウムイオン電池って何?どんな会社がつくっているの?という疑問から、自動車とのつながり、それによる環境問題への影響について詳しくまとめました。
リチウムイオン電池と自動車の関係
リチウムイオン電池って何?
そもそも、電池って何なのでしょう?
簡単に言うと「光、熱や化学反応を電気エネルギーに変えて放出する装置」です。
それでこの電池、大きく分けて1次電池と2次電池の2種類あるんです。
1次電池は使い捨ての電池。乾電池がこれにあたります。
2次電池は充電ができる電池で、「蓄電池」「バッテリー」などとも呼ばれます。
リチウムイオン電池はデジタルカメラ、ノートパソコンやスマートフォン、そして電気自動車などに搭載されています。
もうおわかりですね?リチウムイオン電池は2次電池です。
電池というのは正極と負極の間での電子のやり取りで放電・充電しています。
これはリチウムイオン電池も同じ。
リチウムイオン電池には正極にコバルト酸リチウムが、負極に特殊な炭素材料が使われています。
負極材の炭素材料を開発したのが吉野さんです。
コバルト酸リチウムには「合成が簡単」「高い電圧を起こす」「寿命が長い」、炭素材料には「熱に強い」「小型化が可能」という特徴があります。
これらはそのままリチウムイオン電池の特徴でもあって、「小型・軽量で高い電圧を生み出す」というのがリチウムイオン電池の強みです。
現代のノートパソコンやスマートフォンが軽く、高性能なのも頷けますね。
ちなみに1991年、世界で最初にリチウム電池を商品化・発売したのは「ソニー」で、初めて搭載された製品はビデオカメラです。
車載用リチウムイオン電池
そうしたデジタル機器や飛行機、人工衛星まで幅広く使われているリチウムイオン電池。
今後は電気自動車などでの利用が進むことでさらなる普及が予想されます。
民間の調査会社は、車の自動化によってリチウムイオン電池市場が一層大きくなると予測しています。
リチウムイオン電池の世界市場は2022年には7兆3,900億円まで拡大する見込みで、これは2017年と比較すると2.3倍の値です。
ここまでの話でおわかりかもしれませんが、リチウムイオン電池は自動車と相性が良いのです。
エンジンに代わる車載用電池は、走行距離や安全性を左右する重要な部品。
「軽くて、パワーが出せて、熱に強くて安全」なリチウムイオン電池はそれにふさわしいんですね。
従来の2次電池(ハイブリッドカーに使われる「ニッケル水素電池」)と比較して2倍の電池容量と3倍の電圧を持つと言われています。
電気自動車の圧倒的な加速力はここから来ているんですね。
また、“小型”というリチウムイオン電池の特性も電気自動車のメリットになります。
電気自動車はエンジンが必要ありません。
つまり、エンジンルームは存在しません。
そのため、スペースを有効活用できます。
この空いたスペースのため、電気自動車は居住性も高く、収納スペースも広くなります。
エンジンルームを全てトランクとして使用できるのでガソリン車と比べて収納スペースは2倍になります。
車載用リチウムイオン電池の会社
車載用リチウムイオン電池を製造する会社にはどのようなものがあるのでしょうか。
①パナソニック(売上高約7,000億円)
言わずと知れた日本を代表する電機メーカー・パナソニック。
リチウムイオン電池の世界シェアは23%(2018年)。世界トップシェアを誇ります。
パナソニックは、こちらも世界トップである電気自動車メーカーのテスラと提携関係にあります。
アメリカなどで車載用電池の生産体制を拡大中です。
アメリカには世界最大の電池工場「ギガファクトリー」があり、共同運営を行っています。
名前からして超でかそう…。
テスラCEOのイーロン・マスク氏はパナソニックのリチウム電池を指して「日本の魂が宿った」と評しました。
なんともかっこいい表現です。
一方でテスラはリチウムイオン電池の自社製造も試みており、今後のパナソニックとの関係が懸念されるところではあります。
また、トヨタと共に車載用電池の合弁会社をつくると発表されています。
日本の老舗2社がどんな車をつくるのか、楽しみですね。
②CATL(中国/売上高約4,600億円)
③BYD(中国/売上高約1,400億円)
今や中国は世界最大の車載向けリチウムイオンの生産地。
ソニーが初めて実用化して以来、リチウムイオン電池は日本の独壇場でした。
しかし、中国メーカーの攻勢により日本メーカーのシェアは低下してしまいました。
中国は国の政策として電気自動車の製造が推奨されています。
車載用電池の製造にも政府からの補助金が下りるんです。
世界2位のCATLは中国現地の自動車メーカーのみならず、BMWなど外資メーカーへの供給を拡大させてきました。
3位は自動車メーカー・BYD。
乗用車に加え、バスなどの商用車向け電池に強みを持っています。
現在は自社用に供給するのがメインですが、今後は外販も増えるようです。
もちろん、日本の自動車メーカーも中国の電池製造には熱視線。
性能の良い電池を少しでも安く、他社よりも優先して供給してもらおうと提携関係の構築を進めています。
ホンダはBYDと、トヨタはCATL、BYDの両社と提携関係を結ぶと発表しています。
リチウムイオン電池、電気自動車と環境との関わり
リチウムイオン電池が電気自動車に適することはわかりました。
では、このことが環境問題にどう関わっているのかについて見てましょう。
「どこでつくられるか」で環境への負荷は異なる?
自動車を動かす時だけでなく、リチウムイオン電池をつくるためにも電気が必要です。
「その電気をどう生み出すか」というのがここでの論点。
電気自動車は走行時にCO₂を排出することはありません。
ですが、国によっては電池の製造過程で多くのCO₂を排出する恐れが。
ドイツのような化石燃料を電力源とする国の工場でリチウムイオン電池1つを製造すると、燃費の良い従来型のディーゼル車1台を生産するより70%以上も多くのCO₂を排出するというデータもあるのです(ドイツ・自動車コンサルティング会社「ベルリス」による)。
これに対しては各国の電力・エネルギーに対する取り組みが大きな鍵となってくると考えます。
というのも中国がリチウムイオン電池製造に強いのは、間違いなく国際的なCO₂排出規制があったからです。
こうした世界規模での環境への姿勢が、電気自動車の普及にも直結すると考えます。
スマートグリッドによるエコな社会へ
では、リチウムイオン電池の開発者である吉野さんは環境問題をどう見ているのでしょうか?
「まずは電気自動車をできるだけ普及させること。ただそれだけでは足りない。搭載されたリチウムイオン電池をどううまく使いこなすか。太陽電池、風力発電などによる電気を一旦車にため込む。これにより、太陽電池や風力発電が普及することになる」
これは受賞後のインタビューで吉野さんが語った言葉です。
これはすなわち、「リチウムイオン電池を起点としたスマートグリッド」だと言えます。
スマートグリッドとは次世代の電力網・エネルギーシステムのことです。
環境に優しい再生可能エネルギー(太陽光や風など)で発電、余った分は電気自動車に蓄電。
その電気を使えば自動車を走らすことはもちろん、停電のときにも家の明かりを灯すことができます。
その中心となるのが、電気をためておく電気自動車であり、リチウムイオン電池であるのです。
化石燃料がいらない“スマートシティ”の実現が待ち遠しいですね。
リチウムイオン電池の発明によって得られるもの
世紀の発明・リチウムイオン電池。
それは自動車の形を変える製品に留まらず、私たちが長らく議論を重ねてきた環境問題を解決する糸口です。
吉野さんは研究をする上で大事にしていることについて「あきらめない粘り強さが必要。
その一方で壁にぶつかった時には柔軟な発想も必要で、その2つのバランスをとるのが一番重要」と話しています。
環境や資源をはじめ数多くの問題に直面するこの現代。
そうした深刻な問題に粘り強く向き合い、時には今までにないような柔軟な発想で乗り越えるというヒントを、吉野さんとリチウムイオン電池に教えてもらったような気がします。