国産エンジン史スポーツカー・70年代トヨタツインカムの時代(前編)

70年代に入り、急激に先細る各社のDOHC

1960年代中盤から後半にかけ、ホンダ、プリンス(日産)、いすゞ、トヨタと次々と繰り出されたスポーツタイプのDOHC(ツインカム)エンジンですが、1970年頃を境に急激に下火になります。

ホンダはDOHCを搭載していたS800のようなスポーツカーから、軽乗用車のN360やライフ、やがて普通車のシビックへと、実用車へ軸足を移す流れでS800を1970年に生産終了させたのを境に、一旦市販DOHCから遠ざかりました。
元々プリンス時代のレース用エンジンであったS20をスカイラインGT-RやフェアレディZ432に搭載していた日産は、DOHCエンジンは純粋にレース用エンジンのようなポジションであり、主力は日産の作ったL型、プリンスのG型のようなSOHCエンジンのため、1973年に2代目のKPGC110型スカイラインGT-Rをわずか197台ほど作った後は、しばらくS20の後継エンジンを世に送り出す事はなくなります。
残るはトヨタといすゞですが、いすゞはこの時期から既に市販乗用車の開発リソースが限界に達し始めており、ベレット GT TypeRの陳腐化と、GMの世界戦略車のいすゞ版であるジェミニが後継になった時にDOHCエンジン搭載モデルを当初設定しなかった事もあり、117クーペに搭載したG161W型DOHCエンジンの排気量を上げながら延々と作り続ける状態に陥ります。
そんな70年代のこの時期、ただひとり新型DOHCエンジンの開発・販売を続けていたのはトヨタでした。

トヨタ初の量販DOHC、8R-Gの登場


当初、6気筒DOHCの3Mを搭載した2000GT、4気筒DOHCの9Rを搭載した1600GTと2種のDOHCエンジン搭載車を1960年代に販売していたトヨタですが、1600GTは短命に終わり、2000GTも普及を目指さない超高級スポーツカーであり、1970年には生産を終了してしまいます。
しかし、その一方で1969年には1600GTの後継として初代マークII(当時の名称はコロナマークII)に、1.9リッター4気筒の8R-G(当初の名称は10R)を搭載したスポーツグレード「GSS」を設定、これがトヨタ初の量販DOHC搭載車となりました。
8R-Gはその名称からわかるように1600GTの9Rと同系統のエンジンで、ボア・ストロークともに拡大して1.6リッターから1.9リッターに排気量アップした2バルブDOHCエンジンで、トヨタのスポーツエンジンとしては定番の、ヤマハが開発したDOHCヘッドを載せています。
最高出力こそ9Rと同じ140馬力なものの、最大トルクは14.0kgf・mから17.0kgf・mに向上し、やや先行して登場したライバル、初代日産 ローレルにDOHCエンジンが搭載していない事に対して、大きく差をつけたのでした。

レースやラリーで活躍した名機、トヨタ2T-G登場


1.9リッターと中途半端な排気量でどちらかと言えば過渡期の存在だった8R-Gでしたが、1970年に入って早々に、その後長くトヨタ・ツインカムの名声を保つ事になる量販DOHCの決定版、2T-Gが初代セリカに搭載されて登場します。
1.6リッター直列4気筒2バルブDOHCの2T-Gは最高出力115馬力、最大トルク14.5kgf・mとカタログスペックは平凡だったものの、よく吹け上がる上にチューニングによく耐えるだけの余裕と耐久性があり、市販のノーマル状態でもさる事ながら、「イナゴマル」と呼ばれた1,750cc化や、同じく2,000cc化などさまざまなチューニングベースとなりました。
当初は初代セリカ、そして初代カリーナ(当時はセリカの兄弟車であるスポーツセダンでした)に搭載されて好評だった2T-Gですが、これをさらに小型軽量なカローラ/スプリンターに搭載した新型スポーツクーペ、カローラレビン/スプリンタートレノが大ヒット!
小型軽量ハイパワーエンジンの「じゃじゃ馬」ではありましたが、レースだけでなく国内外のラリーでも大活躍する事となります。
既にトヨタ 1600GTやいすゞ ベレットGT TypeRで「テンロク(1,600cc)ツインカム」は登場していたものの、そのジャンルを確立させたのはトヨタの2T-Gであり、それ自身は日産や三菱のテンロクSOHCエンジンと、後には後継の4A-Gがホンダや三菱の「テンロクツインカム」と大激闘を繰り広げる事となる第1歩となったのでした。
なお、2T-Gそのものはハイオクガソリン仕様でしたが、レギュラーガソリン仕様の2T-GRやOHV仕様の2T-Bもあり、それぞれ2T-Gより出力/トルクは劣ったものの、よく回る特性は同一で廉価版としては十分な性能を持っていました。
ただ、同じエンジンにOHV仕様がある事はエンジンブロックにプッシュロッド用の穴が空いているという事であり、2T-Gおよび2T-GRでは維持に際してこの穴からのオイル漏れなどに注意が必要です。

もうひとつの量販トヨタツインカム、18R-G


2T-Gほど目立った存在ではありませんでしたが、8R-Gの後継として2リッター化された18R-Gも1972年の2代目マークIIから登場しています。
2リッター直列4気筒2バルブDOHCの18R-Gは最高出力145馬力、最大トルク18.0kgf・mと2T-Gより大排気量ながらでの余裕があり、カローラレビン/スプリンタートレノより大型のセリカ、カリーナ、コロナ、マークIIはこの18R-G搭載車がスポーツグレードのメインとなっていくのでした。
その源流は初代クラウンのR型エンジンまで遡れるだけあって基本設計が2T-Gより古く、エンジンフィーリングやチューニングベースとしての耐久性で劣ったものの、それでも後にはレーシングエンジンベースとしてターボ化されるなどして、後継の3T-GTや3S-G、1G-GEの登場までの長期間、センチュリー、クラウンを除くトヨタの上級車種用スポーツエンジンとして作られています。

以上、今回は1970年代初期にトヨタから2つの量販ツインカムエンジンが登場した時代をご紹介しました。
1973年に日産 スカイラインGT-Rといすゞ ベレットGT TypeRが生産終了すると、いすゞ117クーペを除けばDOHCエンジンはトヨタの独壇場となっていきます。
その理由としては各社とも実用性、信頼性が高くコストの安いSOHCエンジンでも十分な性能を発揮できるようになり、またそれを搭載した実用車に注力していく事になるからですが、それでもユーザーアピールとしてDOHCエンジンの火を現在まで絶やさず、しぶとく作り続けるあたりは現在のプリウスなどハイブリッド車への態度に通ずるものがあるでしょう。
次回はそのトヨタのしぶとさが最大限に発揮されたオイルショック、省エネ時代でも続いたトヨタ・ツインカムを紹介します。