【ahead vol.175】意外なイタリア:イタリア人の仕事の流儀

とある人から、日本の自動車整備工場に納めている整備機器のほとんどがイタリア製だと聞いて、意外に思った。でもそう言われてみると、スーパーGTなどのレースの現場でタイヤ交換の際に使われているインパクトレンチはほぼすべてがイタリアのパオリというメーカーのもの。楽天的、お調子者、情熱的、おしゃれ、刹那的、ちょっといい加減……。そんなステレオタイプなイタリアのイメージのその向こうに、私たちの知らない意外で奥深いイタリアの姿が隠されているのかもしれない。

イタリア人の気質から生まれた〝イタリアン・ジョブ〟のイメージ

僕達は〝イタリア〟と一括りにして論じるけど、日本に東京があれば竹富島があるように、イタリアにも様々な都市や地域、つまり文化圏がある。御存知イタリアは元々ずっと都市国家で、150年ちょっと前までは小さな国々が戦い合ったり協力し合ったりを繰り返しながら複雑な歴史の流れを描いてきたわけで、その名残りは今もあって、地方ごとに文化や風習、市民性などは思いのほか違っている。単純に北と南を較べても「南のヤツらは働かない」「北のヤツらは冷たい」みたいに、基本的な気質などがかなり違っていたりもする。もちろん個人差だってある。

それが大前提。とはいえ、これまで現地で仕事してきた体験や出逢ってきた人達のことを考えると、僕達日本人の頭の中に何となくある〝イタリア人〟像もそうハズレてはいないかも、と思えるところもある。陽気で気さくで楽天的で情熱的。シンプルでストレートでエモーショナルでマイペース。とても人間的でいいヤツ、という感じ。実際そういう人が多いのは確かだな、と思う。でも同時に、例えば「楽天的」が「テキトー」に、「ストレート」が「自分勝手」に、「エモーショナル」が「気分屋」に、「マイペース」が「迷惑なほどのスーパー・マイペース」に、それぞれ成長しちゃってるような人が目立つことも否定できないところではあり、そのイメージがひとり歩きしてる側面もある。〝イタリアン・ジョブ〟という言葉が、〝テキトーな仕事っぷり〟〝完成度の低い仕事〟みたいに解釈されがちなのは、だからなのだろう。

名もなき町の整備工場がアルファ・ロメオに施した最高の仕事

でも、そうとばかりはいえない、ということを僕は知っている。初めてそれを実感したのは25年ほど前だったか。トリノに住んでいた知人が日本に持ち帰ってきた、その時点で軽く15年落ちだったアルファロメオのダッシュボードを、何かのハズミでバラシ始めたときだ。そこに隠れていた電気系統の配線は、必要と思われるゆとりこそ持たされていたものの、余分なたるみや乱れは一切見られず、何本かが束ねられる箇所のそれぞれの長さはピタリと合って寸分の狂いもなく、整然とした流れを見せていた。それこそテキトーに遊ばせておいても何ら問題がない部分だってあるのに、唖然とするほど正確で、美しく処理されていた。最も驚いていたのは知人自身だ。彼はそのクルマを年老いた大家さんから安く譲ってもらい、大家さんが修理に入れていたガレージで面倒を見てもらっていたのだが、ラジオが鳴らなくなったついでに配線のチェックを頼んだ記憶はあったものの、メーカー純正を凌ぐレベルの処理までしてくれてたとは思っていなかった。しかもそのガレージは有名でも何でもなく、よくある名もなき町の整備工場のようなところだったらしいのだ。

破損したアバルト500を蘇らせた最高品質の〝イタリアン・ジョブ〟

最も新しい実感は、去年である。全日本ラリー選手権でのチャンピオン経験があるドライバー、眞貝知志選手と彼の所属チームであるmCrt(ムゼオ・チンクエチェント・レーシング・チーム)が初の海外ラリー挑戦ということで、9月のイタリア選手権ローマ・ラリーに参戦した。mCrtが現地のパートナーとしてジョイントしたメンテナンスガレージは、イタリア国内戦では名の知られたところではあったが、代表とその10代の息子、それにメカニックという3人編成だった。彼らは競技中のアクシデントで前後左右のサスペンションと駆動系、フロア周りを破損し、「コース上を走らせるのがやっと」の状態だったアバルト500を、4時間たらずで戦える状態に戻してみせた。普通の修理工場なら「1ヵ月は預からないと……」という状態のクルマをバラし、交換できるパーツは全て交換し、叩き、曲げ、セッティングデータに合わせ直し、という恐ろしく大掛かりな作業を施し、剥がれたボディのデカールもほぼ元通りに美しく整えるというオマケ付きだ。アクシデントの痕跡は、見た目にもパフォーマンス的にも全く判らない。彼らに「さすがだね」と伝えたら、「おまえは何を言ってるんだ?」の表情で「これはラリーなんだぞ」とだけ返ってきた。

マジメに取り組んだイタリア人達の仕事は、本当に凄いのだ。そうした仕事ぶりを何度も見せてもらってきた僕としては、そっちの方を〝イタリアン・ジョブ〟と呼びたいくらいなのである。

僕達日本人の先祖が縦穴に屋根を被せた家に住んで土器を作ってた時代、彼らの先祖はすでに多色使いの写実的なフレスコ画や大理石の精密な彫像を手掛け、コロッセオのような正確に設計がなされた巨大建築物を完成させていたという事実を、忘れてはいけない。

●嶋田智之/Tomoyuki Shimada 1964年生まれ。エンスー系自動車雑誌『Tipo』の編集長を長年にわたって務め、総編集長として『ROSSO』のフルリニューアルを果たした後、独立。現在は自動車ライター&エディターとして活躍。

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