ブータンは現在、環境に配慮したゼロ・エミッション国家になるという目標を掲げています。首都ティンプーを走る4万台の車に代表されるように、そのほとんどはガソリン車です。ブータンはティンプー市民10万人の移動手段を化石燃料を必要とせず、クリーンエネルギーのみで賄う“クリーン・エレクトリックシティ”を目指しています。
その中核として自動車のEV化を推進しています。冒頭で「ブータンは車の輸入が原則禁止されている」と述べました。ここでいう車とは「化石燃料(ガソリン)車」のことで、これは2011年に輸入が禁止されました。実をいうと2014年に輸入は解禁されましたが、税率を高く引き上げることで輸入を抑制しています。
ですがEV(電気自動車)は例外です。むしろ輸入が促進されており、EVに関しては環境税、消費税、関税などすべての税金を免除しています。
日産とともにガソリン車をなくし、完全EV化へ
ゼロ・エミッション国家を目指すブータンの強力なパートナーが日産です。日産はブータン政府公用車、およびタクシー車両としてのリーフの提供を皮切りに、ブータンにおけるEVの普及に貢献しています。2016年3月時点で計52台のリーフが導入されています。
ブータンでは1990年代後半から水力発電を推進しています。水力発電によるクリーンエネルギーはブータン国内では利用せず、そのほとんどをインドに輸出しています。一方でインドからはガソリン用の石油を輸入しています。自国のクリーンエネルギーを有効活用することで石油輸入を少しでも減らしたいという考えがあります。
日産はブータン国内に充電スタンドを設置するサポートを行い、ブータン産の電力の有効活用の後押しを行っています。
また、ブータンは三菱自動車ともEV化について提携を結んでいます。日本の自動車メーカーが一国を挙げた取り組みの支えになっていることは誇らしい限りです。
いつまでにブータンのEV化は達成される?

EV化を中心としたゼロ・エミッション国家はいつ成立するのでしょうか。従来ブータンはインドから車(いすゞ車を中心とした日本車)を輸入してきました。そしてブータン社会はインドからの影響を受けて発展してきたという点からも、インドにおけるEV普及が大きなカギとなるのではないかと推測します。
インドでは「2030年までに完全EV化」を掲げていましたが、「同年までにEV化40%」に目標を修正しました。目標を下方修正したことは事実ですが、EVに対する取り組みは積極的に続いています。2023年までのEV普及率を15%以上とする目標を表明するなど、EVをはじめとする環境自動車の普及、市場拡大が期待されています。同時に充電ステーションの設置も進展しています。
全世界的にみると、ヨーロッパでは2040年頃にはガソリン車の販売が禁止されます。これを考えると、インドの完全EV化も2040年頃になるのではないでしょうか。ブータンの完全EV化もそれ以降ということにはなるでしょう。
ちなみに、ブータンには日産リーフだけでなくインド・マヒンドラ社のEVも導入されています。
ブータンに必要な今後の取り組み
その頃までにブータンの完全EV化を成し遂げるためには、道路やEV充電スタンドといったインフラがきちんと整備されていることが必要になります。また、免税措置があるとはいえブータン国民の所得を考えるとEVは高額です。補助金など購買意欲を高める政策を実施することが求められます(充電スタンドの設置も含め、国からの補助金の交付についてはいまだ検討中)。さらには自国、日本などの自動車メーカー、国際機関が連携することが不可欠です。
最後に・・・

ブータンでは国の成長指標として国民総幸福量を用いてきました。それは持続的な開発を軸とした、国民自身の心の満足度を表した指標です。ブータンという国はまだまだ“裕福”だとは言えません。ですが、少なくとも国民は”幸福”だと感じています。ブータンでの取り組みを手本として、世界にこのEV化の輪がどんどん広がっていくことは、世界のあらゆる人々が幸福になっていくことの象徴と呼べるのではないでしょうか。